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#料理男子
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クリスマス前日。会社のロビーにも大きなクリスマスツリーが飾られ、次の日は社員全員に十二センチのミニ・ブッシュドノエルが配布される。去年、上に乗っている苺が酸っぱかったと兄に言ったら、今年はホワイトチョコレートの天使が三体乗っている。
今日は、小春が定時で帰っていった。肉食系小動物美女の彼女は、見事に恋人をクリスマスまでにゲットしたらしい。小躍りしていた。
小春は仕事もできるし可愛いしで、社内の評判も悪くないのに、社内恋愛は面倒くさいと合コンばかりしていた。
そのせいで、小春の恋人ゲットに泣く男性社員も少なくないとか。
「良かった。まだ残ってたか。内線しようか悩んだんだが」
「お兄ち――社長」
兄が秘書を引きつれて、事務所に顔を出す。
最上階で、新しい部署の書類作成に追われていた兄が、下界に何の用だろう。
「ちょっとこの書類なんだが」
「はい」
まだ部署内には数人の人が残っていたので、隅の方へ連れていかれ、書類を覗き込む。
けれど書類はさきほど会議で使われていたが、私とは全く関わりのない内容だった。
お兄ちゃんは小声で、仕事の振りをしながら違う話題を振ってくる。
「お前、正月はうちに帰んの?」
「うん。喬一さんがうちに来るのは久しぶりだなって楽しみにしてたよ」
「お前なあ。うちなんて何時でも来れるだろ。喬一さんの家を優先しとけよ」
「お兄ちゃんは、喬一さんの家の事情を知らないの?」
こそこそと小さな声で耳打ちすると、微妙な顔をした。
知っているからこそ心配しているようだった。
「お前が行かないで、親戚たちからの心象が更に悪くならないか? 喬一さんはお前に隠して自分だけで対象しようとしてるように思えるけど」
「じゃあ元旦に挨拶だけ行けるか聞いてみるね」
私も結婚して初めてのお正月は行かないのに少し戸惑いはあった。
でも彼と彼のお姉さんのことを想うと強くも言えないし。
一応確認だけしとこう。
「あともう一つ」
「まだあるの?」
「……喬一さん、クリスマスが誕生日だからな」
「え!」
「なんで嫁が知らないんだよ。馬鹿か」
ファイルで頭を軽くたたかれた。でも寝耳に水だ。
というか、私は普段から全く彼のことを知らなさすぎる。絶対に喬一さんは、教えていないけど私の誕生日とか把握してそう。下手したら、うちの家族全員の誕生日を把握してるかも。
でもでも。だから、私にクリスマスにケーキをお願いしたのかもしれない。
「社長、ありがとうございます。急用を思い出したので帰ります」
「ああ。さっさと行け。給料日前に俺の家に入り浸ったり、課金額を監視されないように、旦那を大切にしろ」
追い払うようにロッカールームに進行方向を決定された。本当にうちの兄は、気遣いもできて無駄に美形で、完璧だ。兄妹なのに私はどうしてこうも、いい加減で周りに気遣いもできない馬鹿なんだ。
急いで退社して、プレゼントを見て回った。
喬一さんには定時に帰ると言っていたけど、少し遅くなる連絡をしたら、数分して携帯に着信があった。
『紗矢、今どこ?』
「えーっと、まだ会社です」
嘘だ。私は今、ファッションビル内の各フロアの案内図の前だ。
喬一さんへのプレゼントがさっぱりわからなくて困っていた。
手袋、マフラー、キーケース、財布。どれも新品のように綺麗に使っているし。通勤時間もないから、防寒対策系の衣類は使わない気もする。趣味は料理だから、やっぱりキッチン系のものがいいのかな? と案内図の前で小物系のお店をチェックしていた。
『そうなんだ。俺も今、出先から帰るから一時間ぐらいで駅に着くけど、それまでに仕事が終わるなら偶には外で食事でもどうかな?』
「はい。是非」
喬一さんの手作り料理を食べてから、外食には興味がなかったけど今日は別だ。今日は学会の総会で大阪に遠征している。年に数回とはいえ、平日にしかないので病院を日色さんに任せないといけないからと申し訳なさそうだった。
そんな学会帰りで疲れてる喬一さんに、ご飯を作らせるわけにはいかず、何か私が作ろうと思っていたところだった。