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翌日10:00 京都駅八条西口。
タクシーから降りて、京都駅新幹線乗り場へと向かう中、韓洋は大勢の報道陣らに取り囲まれ質問責めにあっていた。
カメラのフラッシュは鋭い刃の様に、韓洋の眼球を突き刺そうと迫り来る。
ボイスレコーダーやスマホを向けられながら浴びせられる取材陣の声は、あまり聞き取れなかった。
韓洋は、昨夜の出来事は記憶になかった。
それ程酒を飲んだ訳でもないのに、頭痛と胃もたれは酷く、喉もカラカラに渇いていた。
布施は、遠巻きにその様子を伺っていた、
「不自然な事があっても、一切関わらないで下さい」
と、倉敷から言われていた。
布施は、これ以上中国人に飼われ続ける人生に我慢ならなかった、
だから、倉敷達と行動を共にすると決めた。
布施の脇を、ショートヘアーの女が通り過ぎる。
何処かで見かけた気がした。
胸元のペンダントが揺れている。
「韓さん! 桂木内閣との関係はいつからですか!?見返りは?」
「東京ジェノサイドは作為的な攻撃で間違いないですか!!」
「貴方は中国の手先だ!」
「日本から去れ!」
「人を殺したのは事実ですか!?」
韓洋の耳に、憎悪剥き出しの声が響く。
インタビュアーのひとりが、韓洋の目の前にタブレットを差し出して動画を再生した。
ズキズキと痛むこめかみ。
カラカラに渇いた喉に、胃液が逆流し始める。
青空。
白い雲。
アスファルトの黒。
いつもと変わらない感触は目眩しの様に、韓洋の精神をゆっくりと崩壊させていった。
パンツ1枚でベットに縛り付けられた己の姿が、上手く脳に記録出来ない。
築き上げたモノが、音もなく消えていく。
それは恐怖でしかなかった。
ひとりぼっち。
容赦のない罵詈雑言。
耐えられない。
スーツのポケットに手を忍ばせる。
折りたたみのバタフライナイフは、御守りの為にここにあるのだと感じた。
誰かがくれた御守り。
頬が強張り痙攣し始める。
涙が止まらない。
「誰か、助けてくれ…」
心で、韓洋は繰り返した。
「誰か助けてくれ…」
チリン。
鈴が鳴る。
何処と無く懐かしくて安心出来る音。
胎内の温もりにも似たやさしさ。
チリン。
音の方へ目を向けると、ショートヘアーの女が微笑みながら何やら呟いている。
薄い紅をさした唇がゆっくりと動く。
「死ね」