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大型スーパーの入り口近く。 ベンチに腰掛けている黒尾鉄朗は、片腕に小さな命を抱えていた。
「……🌷、ママ遅いなぁ」
返事の代わりに、腕の中の赤ちゃんが「ふぇ」と小さく声を出す。
慌てて黒尾は少し体を揺らした。
「おっとおっと。大丈夫、大丈夫。パパおるよ〜」
慣れていない人が見たら意外すぎる光景だろう。
高身長、鋭い目つき、黒いコート。
いかにも“強そう”な男が、赤ちゃんを抱っこして必死にあやしている。
しかもその赤ちゃんが、
ふわふわの帽子に包まれた、女の子
「……あの人、モデルさん?」
「え、パパなの? やばくない?」
「赤ちゃん小さくて可愛い……」
周囲の視線が集まっているのを、黒尾はもちろん気づいている。
気づいているが——
「見んな見んな。俺の娘やぞ〜」
小声でぼやきながら、🌷の背中をぽんぽんと叩く。
「ママがな、今めっちゃ気合い入れて買い物してるからサ。
もうちょいだけ待ってやって?」
🌷は黒尾の胸元をぎゅっと掴んで、安心したように眠りかけている。
「……あ〜、反則。可愛すぎ」
黒尾は思わず頬を緩める。
鋭い目つきも、余裕の笑みも、今は全部どこかへ消えていた。
「🌷さ、ママに似てんだよな。
このへんとか」
小さな指に触れながら、声を落とす。
「だからさ……守るの、大変」
その瞬間。
「お待たせ〜!」
買い物袋を両手に下げた🌸が、少し申し訳なさそうに駆け寄ってくる。
「ごめんね、てつろー。時間かかっちゃって」
「ん? 全然」
そう言いながら、黒尾は🌷を抱いたまま顔を上げる。
「ほら見て。めっちゃいい子で待ってた」
「ほんとだ……寝てる」
「俺の腕がいいからな」
「はいはい」
🌸が笑いながら覗き込むと、🌷が小さく身動きする。
「……あ」
「起きた?」
🌷は一瞬だけ目を開けて、
ママの顔を確認すると、安心したようにまた黒尾の胸に顔を埋めた。
「……」
「……」
🌸と黒尾は目を合わせる。
「……これ、どういう状況?」
「選ばれたな、俺」
黒尾は少し誇らしげに笑う。
「なにその顔」
「だってよ?
ママいるのに、俺のとこ来るんだぜ?」
🌸はくすっと笑って、そっと黒尾の腕に触れる。
「ありがとう。待っててくれて」
「当たり前。
この二人待つ時間とか、余裕で幸せだわ」
その言葉に、🌸の胸がじんわり温かくなる。
周囲から見れば、
目立ちすぎるパパと、可愛いママと、小さな赤ちゃん。
でも黒尾にとっては——
ただ、守るべき“世界一大事な場所”だった。
「ほら、帰るぞ。
次は三人でな」
🌷を抱き直し、🌸の手を自然に引く黒尾。
その背中は、どこからどう見ても——
一際目立つ、最高に頼れるパパだった。