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第9話 〚甘い声、鋭い予知 〛
翌朝。
澪は、いつも通り少し早めに教室へ入った。
机に鞄を置き、
取り出したのは一冊の本。
文字を追うことで、
ざわつく教室の音を遠ざける――
それが、澪の落ち着く方法だった。
「……おはよ、白雪さん」
不意に、柔らかすぎる声がした。
顔を上げると、
そこには、りあが立っていた。
(え……?)
「今日も早いね」
「委員会、入れたのすごいじゃん」
「放送委員って、意外と大変そうなのに」
次々に並ぶ言葉。
笑顔。
優しい声。
(……変)
澪の胸が、ざわつく。
その瞬間だった。
――頭の奥に、
いつもの“妄想”が流れ込む。
笑顔の裏。
ひそひそ声。
澪を見下す視線。
「ほんと、調子乗ってるよね」という言葉。
(……嘘)
りあの言葉は、
本心じゃない。
澪は、ぎゅっと本を握った。
「……ありがとう」
それだけを、静かに返す。
りあは一瞬、
期待していた反応が返ってこなかったことに
少しだけ、目を細めた。
「じゃ、またね」
そう言って、
りあは男子たちの集まる方へ向かう。
「ねえねえ〜!」
「昨日の部活さぁ〜」
急に声が高くなる。
身振りも、表情も変わる。
(……やっぱり)
澪は視線を本に戻した。
そのとき。
「おはよう、澪」
聞き慣れた声。
橘海翔だった。
「……おはよう」
「何読んでるの?」
「えっと……これ」
澪が少しだけ本を傾けると、
海翔は自然に、覗き込んできた。
「へえ、そういう話なんだ」
距離が、近い。
澪の心臓が、
どくん、と跳ねる。
「……面白いよ」
「今度、貸して」
そのやり取りを――
りあは、見ていた。
ぶりっ子の笑顔のまま。
けれど、
指先が、ぎゅっと握られている。
(……なんで)
(なんで、あの子ばっかり)
りあの中で、
昨日芽生えた恨みが、
はっきりと形を持ち始めていた。
一方、澪は、
胸の奥で確信していた。
――嵐が来る。
予知は、
もう、始まっている。