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少しだけ『誰も知らない、高嶺の花の裏側』の52話を誤公開してしまい、すみませんでした。 実は裏側の物語は、もう完結しています。 なので、今後は 1日4話ずつ公開 していきます。 一気に物語が進みますが、ぜひ最後までお付き合いください。
第10話 〚歪んだ想いの行き先〛
西園寺恒一(さいおんじ こういち)は、澪を中学二年の頃から見ていた。
運動会の練習。
苦手そうに走りながらも、必死に前を向く澪。
その姿を見た瞬間、
胸の奥が、強く揺れた。
(……この子だ)
それから恒一は、
澪を「見守っているつもり」で、
毎日その姿を追うようになった。
登校時間。
下校の道。
図書室へ向かう背中。
それが、
普通じゃないことだと気づかないまま。
その日も、
本棚の陰から澪を見ていた。
だが――
澪の隣にいたのは、
橘海翔だった。
二人きりの図書室。
ノートを覗き込む距離。
自然すぎる空気。
(……ふざけるな)
胸が焼けるように熱くなる。
(澪は、俺のだろ)
澪が先に図書室を出る。
恒一は、物陰に隠れて気配を消した。
少しして、
海翔が一人で出てくる。
その前に、
恒一は立ちはだかった。
「……お前」
海翔が振り向いた、その瞬間。
拳が、振り抜かれる。
鈍い音。
海翔は、壁に身体を預けるようにしてよろけた。
額から、血がにじむ。
「……っ」
「俺の澪に近づくな」
「調子乗ってんじゃねぇよ」
恒一の声は、震えていた。
海翔は、殴り返さなかった。
額を押さえながら、ただ静かに恒一を見る。
「……澪は、誰のものでもない」
低く、はっきりした声。
その一言が、
恒一の理性を、かろうじて止めた。
「……チッ」
恒一は舌打ちし、
その場を去っていく。
廊下に残された海翔は、
ゆっくりと壁から離れた。
血が、指先につく。
(……絶対に)
(澪を、巻き込ませない)
その決意が、
この事件の始まりになることを、
まだ誰も知らなかった。