テラーノベル
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夜の街は、少し肌寒い風が吹いていた。ビルの合間を抜ける風に髪が揺れ、佳奈はコンビニの袋を片手に歩いていた。
人通りは少なく、街灯の光が路地を淡く照らしている。
その時……。
どこからか、静かにギターの音が聞こえてきた。
それは雑踏にかき消されることなく、まるで真っ直ぐ心に届くような、透き通った旋律。
音に導かれるように角を曲がると、そこに一人の少年が座っていた。
ストリートライブというほどでもない。
古びたベンチに腰掛け、青いギターを抱えて歌を紡いでいた。
「……。」
佳奈は立ち止まり、思わず息を呑んだ。
少年の歌は派手さはないけれど、どこか切なく、温かく、胸の奥を震わせるものがあった。
声をかけるべきか、ただ聴いているべきか迷う。
けれど、気づけば足は自然に前へ進んでいた。
歌い終えた少年が顔を上げる。
黒髪が夜風に揺れ、少し照れくさそうに笑った。
『聴いてくれとったん?』
関西訛りの柔らかい声。
その瞬間、佳奈の胸がまた少し震えた。
「……凄く、良かった。」
気づけばそう口にしていた。
良規は目を丸くし、それから恥ずかしそうに頭をかいた。
『ありがとう。青いギター、変やろ?でもな、こいつが一番相棒みたいでさ。』
その言葉に、佳奈は自然と笑っていた。
夜の街に、不思議な温かさが灯る。
この出会いが、二人の青春を変えていく。
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