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『青いギター、変やろ?』
そう言って照れくさそうに笑った良規に、佳奈は首を振った。
「変じゃないよ。すごく綺麗だと思う。音も……すごく胸に響いた」
真っ直ぐにそう言うと、良規の顔に一瞬驚きが浮かぶ。
けれど次の瞬間には、どこか安心したように小さく笑った。
『……そっか。なんか、そう言うてもらえるん、嬉しいな』
街灯に照らされた青いギターは、夜の闇の中でひときわ鮮やかに見える。
佳奈はつい、そのギターに目を奪われていた。
「いつから弾いてるの?」
『中学生の時からやな。最初は自己流で、ぜんぜん上手く弾かれへんかったけど……気づいたら毎日触っとった』
良規の声は穏やかで、ギターを語るその瞳は、どこか誇らしげで輝いていた。
「だから、こうして夜に弾いてるの?」
『うん。ここやったら、人もそんなに多くないし……なんか、落ち着くねん。まあ、誰も聴いてへんことの方が多いけどな』
そう言って笑う良規に、佳奈は思わず言葉を重ねた。
「でも、今は私が聴いてる」
静かな夜に、その言葉がやけに大きく響いた気がした。
良規は少し黙り込んだ後、ギターの弦を軽く爪弾きながら、柔らかく笑った。
『……せやな。今は君が聴いてくれてる』
その笑顔に、佳奈の胸がまた小さく鳴った。
風が通り過ぎ、街灯の光が二人を包む。
まだ名前もろくに知らない。
けれど、この小さな会話が、なぜか大切なものに思えた。