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第19話【不届き者への『お仕置き』】
「レミエル様……!? なぜ、なぜそこまでしてその裏切り者の雌を庇うのです!?」
アウリナが驚愕に顔を歪ませる。
かつて天界最強と謳われながら、仕事がめんどくさいという理由で突如失踪した伝説の大天使――レミエル。
彼がまさか、自分が最も憎む魔皇帝アイラナの夫として目の前に立ちはだかっているなど、アウリナの歪んだ脳内では処理が追いつかないようだった。
「庇う? 何を馬鹿なことを言っているのさ」
レミエルは薄紫色の瞳を冷酷に細め、長い睫毛の奥からゴミを見るような視線をアウリナへ向けた。
彼の背後に広がる12枚の漆黒の翼が、執務室の空気を圧倒的な重圧で支配していく。
「アイラナちゃんはね?ハデスを裏切ってなんかいないし、ハデスの加護はただのビジネス契約。君のその哀れな妄想癖、800年前から1ミリも治ってないんだね。それから……」
レミエルは一歩、アウリナの方へと足を進めた。その瞬間、アウリナの身体が激しい重力に押し潰されるようにピキリと悲鳴を上げる。
「800年前に君を叩き伏せて殺したのは、そこにいる僕の可愛い奥さんだよ。君はただの一騎打ちで、アイラナちゃんに実力で完敗したの。そんな過去の敗北者が、生き返ったからって臨月で魔力が不安定な彼女を狙って言いがかりをつけに来るなんて……本当に、最高に見苦しくて、最高に不届きだよね」
「くっ……! 黙りなさい、堕天使の分際で! 私は最高神ゼウス様に再び命を授かった、神聖なる光の熾天使よ!!」
アウリナは逆上し、自身のすべてを代償にするかのように、狂気的な光の魔力を爆発させた。
その背中のどす黒く歪んだ翼から、世界を滅ぼさんとする極大の光線が、レミエルと背後のアイラナへ向けて一斉に放射される。
「消えなさいッ!!!!! ハデス様の寵愛を汚す不浄の種族ども!!」
視界のすべてが白銀の光に染まるほどの破壊の渦。
だが、レミエルは表情一つ変えず、ただ退屈そうに指先をパチン、と一つ鳴らした。
ーーパキィィイン!!!
次の瞬間、アウリナが放った極大の光線は、アイラナの元へ届く遥か手前で、まるでガラス細工のように粉々に砕け散り、霧となって消滅した。
「な、に……!? 私の、私の全力の神聖魔術が……!?」
「言ったでしょ。今回は優しくないよ、って」
驚愕に目を見開くアウリナの背後に、いつの間にかレミエルが移動していた。
彼の右手に握られた「神罰の剣」が、不気味な薄紫色の光を放っている。
「愛する僕の奥さんと、もうすぐ生まれてくる可愛い双子を、その汚い口で『不浄』って呼んだ罪は重いよ。……君が大好きなハデス神の元へ二度と魂の還る場所が残らないように、その傲慢な魂の欠片まで、僕がきっちりきっかり、跡形もなく噛み砕いてあげる」
レミエルの声音には、もはや怒りすら感じられなかった。あるのは、ただ害虫を駆除するだけのような、絶対的な強者ゆえの冷徹さ。
「嫌…嫌ぁああ!!!
ハデス様…ハデス様ァァァ!!」
アウリナが恐怖に顔を痙攣させ、狂信的な叫び声を上げる。
だが、その叫びが響き渡る前に、レミエルの神罰の剣が静かに一閃した。
光の熾天使の身体が、薄紫色の魔力の炎に包まれる。
それは熱を持たない冷酷な炎でありながら、アウリナの肉体だけでなく、その中に宿る魂の根源、最高神から授かった命の核そのものを、細胞単位で「完全消滅」させていく。
「あぁ……あ、ハデス…様……」
妄想の愛を叫びながら、アウリナ・グラシエルは光の塵にすらなれず、文字通りこの世界のいかなる輪廻からも完全に排除され、消えてなくなった。
静寂が戻った執務室で、レミエルは12枚の漆黒の翼をスッと消し、神罰の剣を収めると、すぐにいつもの「極上の激甘旦那様」の顔に戻ってアイラナの元へと駆け寄った。
「アイラナちゃん! 大丈夫!? 怖かったよね、お腹の双子ちゃんもビックリしちゃったよね……っ!?」
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ぽんぽんず
「レ、レミエル……私は魔皇帝だ、これくらいで怯えはせん……。それより、お前の方が、その、少し怖かったぞ……」
アイラナは大きなお腹を抱えたまま、普段のウブな顔に戻って少し頬を染めながら、圧倒的な夫の強さに目を丸くするのだった。
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