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第20話
【最高神の思惑と、大天使への帰還命令】
アウリナ・グラシエルが魂ごと完全消滅し、静寂が戻った魔皇帝の執務室。
「……終わったね、アイラナちゃん」
レミエルは12枚の漆黒の翼をスッと消し、いつもの「極上の激甘旦那様」の顔に戻ってアイラナの元へと駆け寄った。
大きなお腹を優しく包み込むように抱きしめるその手は、先ほど神罰の剣を振るっていたとは思えないほど温かい。
「あ、ああ……。私は魔皇帝だ、これくらいで怯えはせん。だが、お前が本気でキレた姿は、その……少し怖かったぞ」
アイラナは赤みがかった頬を隠すようにそっぽを向きつつも、レミエルの胸にそっと頭を預けた。
お腹の双子も、父親の温かい魔力を感じ取ったのか、トントンと内側から小さく応えるように動いている。
しかし、二人が安堵の吐息を漏らしたその瞬間――執務室の天井が、眩いばかりの黄金の光に照らされた。
「――やはり、君に任せて正解だったね。元・天界最強の大天使レミエル」
空間を引き裂いて現れたのは、世界の頂点に君臨する最高神ゼウスの聖なる思念体だった。
アイラナのレッドダイヤモンドの瞳が鋭く細められ、レミエルは露骨に
「げっ、めんどくさいのが来た……」
という顔をして長い睫毛をひそめた。
「ゼウス……。わざわざ魔界まで何の用さ。見ての通り、天界の不祥事(アウリナ)なら僕が綺麗さっぱり片付けておいたよ。文句はないよね?」
「文句などあるはずがないさ。むしろ感謝している」
ゼウスの思念体は静かに微笑んだ。その言葉に、アイラナは眉をひそめる。
「感謝、だと? アウリナを復活させ、臨月の私を襲わせるような真似をしておきながら、白々しい。お前はアウリナの狂気的な妄想に気づかなかったのか?」
「いいえ、魔皇帝。私はすべて気づいていたよ。天界での形ばかりの贖罪を終えたアウリナの背で、天使の羽が黒く澱んでいたことをね」
ゼウスの冷徹とも言える告白に、アイラナは息を呑んだ。
「気づいていながら、泳がせたというのか……!」
「彼女のハデスへの歪んだ愛執と、君への虚言に満ちた逆恨みは、天界の法で縛れるレベルを超えていた。だからこそ、彼女が最も恐れる『天界最強の力』によって、完全に処理してもらう必要があったのだ。……レミエル、君の手によってね」
ゼウスの視線が、真っ直ぐにレミエルへと向けられる。
「天界の不祥事を完璧に片付けてくれた君の功績は大きい。そこでだ、レミエル。君の『堕天使』という咎を解き、再び天界の『大天使』の座へと戻すことに決定した。今すぐ天界へ帰還し、再び我が右腕として働いておくれ」
「大天使に……戻す……それに帰還?」
その言葉を聞いた瞬間、アイラナの身体が小さく強張った。
もしレミエルが大天使に戻れば、彼は天界の人間となる。
魔皇帝である自分とは、再び光と闇に分かたれ、もう二度とハウメア湖で一緒に暮らすことなどできなくなってしまうのではないか――。
押し寄せる不安に、アイラナの胸元にあるハデスの加護が、切なく小さく脈打つ。
だが、そんな愛する妻の不安を吹き飛ばすように、レミエルはこれ以上ないほど盛大な、底意地の悪い「ドSな流し目」を最高神へと向けた。
「は? 何言ってるのゼウス。僕が何のために『めんどくさい』って言って天界から逃げ出したと思ってるわけ? 今さら大天使に戻るなんて、絶対に嫌なんだけど」
最強ゆえに超マイペースな堕天皇帝。
最高神の直々の命令すら一秒で一蹴するレミエルの言葉に、ゼウスの思念体は一瞬で言葉を失うのだった。
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ぽんぽんず