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第50話 〚当日、浴衣と待ち合わせ〛(花火大会編・前半)
集合時間の、十分前。
橘海翔は、もうそこにいた。
浴衣姿の人が行き交う中、何度もスマホの時間を確認する。
(……早すぎたかな)
でも、
澪を待たせるなんて、絶対にしたくなかった。
人混みの向こうから、
見覚えのある影が近づいてくる。
集合時間、ぴったり。
白雪澪だった。
淡い色の浴衣。
髪はいつもより丁寧にまとめられていて、
歩くたびに小さく揺れる。
――その瞬間。
(……無理)
海翔の心臓が、強く跳ねた。
完全に、惚れ直した。
一方で澪も、
立っている海翔を見た瞬間、思わず息を止める。
浴衣姿の海翔は、
いつもより大人っぽくて、
少し距離を感じるくらいかっこよかった。
「……あ、来てくれてありがとう」
澪がそう言うと、
海翔は一瞬だけ言葉に詰まってから、素直に言った。
「澪、……可愛い」
その一言。
澪の顔が、
一気に熱くなる。
「……っ」
頬が真っ赤になって、
視線が下に落ちる。
(やばい……)
海翔は、
そんな反応すら可愛いと思ってしまって、
少し困ったように笑った。
「屋台、回ろっか」
二人で歩き出したけれど、
思っていた以上に人が多い。
前からも、後ろからも、
押されるような流れ。
「……人、すごいね」
その瞬間、
澪の手が、ふっと人波に押されて離れそうになる。
反射的に――
海翔は、澪の手を取った。
「はぐれると危ないから」
そう言って、
しっかりと、でも優しく。
澪は一瞬驚いたけれど、
すぐに小さく頷いた。
「……うん」
指先が、少し震える。
繋いだ手から伝わる体温が、
やけに近い。
夜空には、
まだ花火は上がっていない。
けれど二人の胸の奥では、
もう十分すぎるほど、音が鳴っていた。
――その様子を、
誰かが見ていることに、
まだ気づかないまま。
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