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人物紹介
矛藤 盾(むとう/じゅん)──────私・語り部
たっくん──────────矛藤盾の付き人
矛藤 撞着(むとう/どうちゃく)──────父親
笹谷 佐幸(ささたに/ささち)──────メイド
笹谷 凍江(ささたに/こごえ)──────メイド
不問 幾良(とわず/いくら)───────少女
黒崎 子唄(くろざき/こうた)────テロリスト
1────《知は力〈血は知から〉》
矛藤盾〈私〉十九歳・女・語り部
〈0〉
無理が通れば道理が引っ込む。あるいは
〈1〉
たとえばあんたは、自分が天才だと思うか?
実のところ、そういう人間は、あまり多くない。他人から天才と称されることはあっても、自分を天才だと自覚できるやつは少ない。
それは、世界的に名を残す《天才》たちにも言えることだ。
世界から称賛され、支持され、喝采され、名声を得、地位を得、多額の金を得た、そんな大が三つ付く程の天才でも、未だ自分を天才だと自覚出来ていない者が多い。
────”そんなもの”に比べたら、やはり。
あの《”プロジェクト”》にいた、彼ら彼女らは
狂っていた。
修復不可能なほどに。
理解不可能なほどに。
互いが。
互いを殺して、哀れみながら破壊して。欠損しながら欠落し、混濁する間も無く混乱し、解析し尽くして尚解体し、踏みつけながら愛しく思い、分析させて愚弄し、堆積させて仏式し、ときに慰め叩きつけ、舐め回しながら破裂して、喰らいながら混ぜ合わせ、消し、終わらせた。
傷の舐め合い。もとい、同族嫌悪。そんなひたむきに愚かな《天才》だった。
そして、その《”プロジェクト”》の一員にして、司令塔。それが私、矛藤盾だ。
彼ら彼女らは、私をこう呼ぶ。
《”誇らしき盾”》ロジカルパラドックスと──
「あらすじ………否、自己紹介終わり」
私はベッドから体を起こした。
目の前に広がる、地平線さながらの私の自室。
ここでの朝も、もう二回目だ。
「起きます」
〈2〉
そもそも、今まさに私が寝ているこの部屋を、さも自分の所有物かのようなニュアンスで締めてしまったが、なんと残念なことに、この部屋は私の部屋ではない。
親父の所有物だ。
────矛藤撞着。六十歳(くらいだった気がする)、男。矛藤財閥の現社長にして私の現父親。
自宅は目測で、東京ドーム約三個分ほど。加えて百階建てと来ている。
馬鹿げた数字を見る限り、親父が馬鹿だと言うことくらいは、まあ馬鹿でも分かるだろう。
そんなことはもう分かり切ったことであって、大して問題にするようなことでもないのだが、しかし分かり切ったことを言ったのには訳がある。
馬鹿な親父はありとあらゆる分野における《天才》を呼び集めだした。
興味でも、関心でも、研究でもなく、
娯楽。
飽き足らず、飽き飽きし。
肥えた第六感に、さらに強力な刺激を求めようとするのだ。常時壮大で、スペクタクルな人生だというのに。
「人生? 冗談だよな」
親父はとっくに人間を辞めている。鼻高々で天狗になっている。
…………………天狗?
───しかしまあ、天才なんてみんな死んでいるようなものだ。妖怪変化と相違ないだろう。
死んでいなくとも、天才はみんな魑魅魍魎に通ずるものがある。
────退屈は人を殺すと言うが、天才は自分をも殺すのだ。
「はっ、自殺志願も良いところだぜ」
つまり、ただの僻みだった。
2────《無人のモルグ》
たっくん〈矛藤盾の付き人〉十九歳・男・大学生
〈0〉
待て、話し合おう
〈1〉
私は散歩をすることにした。
なに、理由は単純だ。
一、寝っ転がっていても暇なだけ。二、たっくんに会いたい。以上二つ。
───ちなみにたっくんというのは、私の付き添い人だ。
ゆるく言えば友達。
詳しく言えば”《プロジェクト》の一員”
それだけの関係だ。
それだけで十分だ。
「あ、おはようございます」
「…………………………あ、佐幸さん。おはようございます」
笹谷佐幸さん。二十五歳、女。この屋敷で働く双子メイド、その次女。
姉に当たる笹谷凍江さんと、姉妹そろって先月から配属された、いわゆる新人のメイドさんだ。
身長155.4センチ、体重54.9キロ。(目測)
顔、割りと好み。
スリーサイズ、バスト88、ウエスト62、ヒップ82。(目測)
スタイル、申し分なし。
「……………」
「ところで盾さん。差し支えなければなのですが、今朝はどちらへ?」
「散歩です。今からたっくんのところへ」
「…………………ああ、あの人ですか。ふふ、じゃあ、お出かけですね」
恋愛脳。
女子トーク。
………嫌いじゃない、が。
「佐幸さん私とたっくんはそういう関係じゃないですよあそうそう佐幸さんはこれから全体どちらへ」
逸話は逸らそう。句読点なんて付けるものか。
「私は、これからお食事の準備へ。ご希望であれば、盾さんの分もお作りしますが…………」
「ご遠慮します。お気持ちだけで十分です」
「ですか!」
佐幸さんは軽くスカートを持ち上げ「では」と踵を返した。
かわいらしい仕草だった。
「あ、佐幸さん!」
「………はい?」
「えっと────今、何時ですか?」
「十二時です」
お日様は、とうに頂点に昇っていた。
「お食事って………………」
昼食かよ。
〈2〉
「よお、盾」
声の主はたっくん。
四月十日十六時四十四分〇五秒。
佐幸さんと昼に話してから、四時間四十四分〇四秒が経過したその時だ。
「たっくん、おひさだね。待ちかねたよ」
「ぼくは待ちくたびれたぜ………凍江さんから聞いたよ。お前、五時間もぼくを探してたんだって?」
「いんや、四時間四十四分〇四秒だよ」
「そこまで行くと統計だろ」
「四捨五入したら、なんとびっくり。かかった時間はゼロ分です」
「百の位で切ってどうする」
「一時間単位を瞬時に百の位と捉えるその思考力、流石たっくんだ」
「恐縮だよ」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「ところで盾。直入、お前はなんでここに来たんだ?」
「閑話休題と言ったところかな。かの矛藤撞着大センセ直々の招待だからね。こんな機会は滅多に無いと、ちょっくらバカンスしに来た訳よ」
「いや、それはもう聞いた。ぼくがお前に聞きたいのは《父親と絶縁関係にある矛藤盾が、何故、忌み嫌う実感への招待に乗ったのか》と言うことだ」
私は答えない
「矛藤盾は、何故。どうして。何のために、誰が為に、どんな理由で、何の目的があって、ここに来たのか」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、む」
「む?」
「昔この屋敷であった事件について知りたいことがあるの」
The paradox continued