農園へと迫る『エルダス・ファミリー』バンダレス一派は、その外郭陣地へと近付いていた。
「なんだこりゃあ?」
「兄貴、こりゃ有刺鉄線って奴だ」
張り巡らされた鉄条網を前にバンダレス一派は停止した。
「ちっ、面倒なことしやがって。そんなに臆病なら出てくんなって話だ」
「兄貴ぃ、あちこちに抜け道みたいなのがあるぜ」
「出入りするための道だろ。利用させてもらおうか」
「へい。騎兵!先に行け!」
「あいよ!行くぞ!」
ライフルを片手に馬に乗った団員が先に鉄条網の抜け道に入り、その後に徒歩の団員達が続く。
「そこで止まれ!これより先は『暁』の私有地である!諸君らは現在不法侵入を行っており、これ以上進むならば排除する。我が組織にご用ならば正規の手続きを踏まれたい!」
マクベスは遠くに見えるバンダレス一派へメガホンで叫ぶ。警告は必ずするように規定されているためだ。
「騎兵が二十、歩兵が八十か。全員ライフルを持ってやがるな」
ドルマンが自作した双眼鏡で陣営を見ながらマクベスに伝える。
「出来れば平和的にいきたいですな。お嬢様不在の中で防衛戦などはやりたくはない」
そう言いながらマクベスはバンダレス一派の動きを観察する。
マクベスの警告を受けて一旦停止したバンダレス一派は、次の瞬間近くにあった有刺鉄線の支柱を破壊して返答とした。
「いけーーっっ!!!」
「行くぞーっっ!!」
騎兵を先頭に鉄条網の隙間を縫って一気に進撃してきた。
「射撃用意!」
「野砲はどうされますか!?」
砲兵部隊はまだ錬成中のため実践に参加していない。
「今回は見送る!騎兵を優先して狙え!」
マクベスは自らも塹壕に飛び込んで三八式歩兵銃を構えながら号令を発する。
『暁』戦闘部隊は一斉に小銃を構えた。
「よく狙え!騎兵の速度に惑わされるな!」
これまでにない速度で迫る騎兵に隊員達は戦くが、マクベスの指示を聞いて狙いをつける。
「踏み潰してやれーっっ!!」
騎兵二十人が更に迫り、遂に有効射程内に入る。
「機関銃撃ち方始め!!」
号令と共に三年式機関銃が軽快に射撃を開始して銃弾の雨を浴びせる。だが。
「どうした!?何かあったか!」
二丁の三年式機関銃が発砲しないことに気付いたマクベスは状況を問いただす。
「故障です!弾が出ません!」
「こちらは引き金が重すぎて!射撃不能です!」
突如発生したアクシデント。三丁のうち二丁が使用できないのだ。
「試作ゆえの不具合か!構わん!射撃を継続せよ!各自撃て!」
マクベスは新たな号令をかけて射撃を再開。機関銃一丁と歩兵団による一斉射撃を開始する。
「ぐはっ!?」
「がぁあっ!?」
「うわっ!?」
騎兵数人が撃たれて仰け反り、更に何人かは馬を撃たれて落馬する。だが一瞬の動揺と射線の少なさは弾幕を突破する時間を与えてしまった。
「飛び込めぇーっ!」
十人弱が塹壕にまで接近、馬から直接塹壕に飛び込む。
「オラァアッ!」
「ぐうっ!?」
その内一人がマクベスに飛びかかり、取っ組み合いとなった。マクベスは頭突きをして怯ませ、胴体を蹴って相手を押し退ける。
「ぐぶっ!」
「負けぬ!」
そのままライフルの銃床で殴り付けて、銃剣を突き立てた。
「余裕のあるものは射撃を継続せよ!まだまだ来るぞ!」
取っ組み合いがあちこちで発生していたが、マクベスは射撃継続を指示した。
その指示に従い余裕のあるものは射撃を再会したが遅かった。
「いくぞーーっ!!」
突入してきた八十人は数を減らしながらも数十人が塹壕に飛び込み、壮絶な白兵戦が塹壕のあちこちで繰り広げられることとなる。
互いにもみ合う音、響き渡る怒号と銃声、そして悲鳴。狭い塹壕では数を活かすことが出来ず乱戦に持ち込まれる形となった。
「怯むな!数では我々が優位だ!複数人で当たれ!数の利を活かすのだ!」
「うるせぇやろうだなぁ!」
「ぐっ!まだ来るか!」
指示を飛ばすマクベス目掛けて数人が飛びかかり、周囲の隊員も参加して乱戦となる。
「くっ!これでは全体を見渡すことが!邪魔だ!」
「げはっ!?」
腰から抜いたサーベルで胸を突き刺し、脚で押し退けて引き抜く。
「状況は!?」
傍に居た副官に声をかける。
「詳細は不明です!少なくとも半数、四十人弱が塹壕内に侵入しました!各所で戦闘中です!」
「くっ!塹壕内白兵戦の訓練を優先するべきだったか!奴等を一人として塹壕から先へ通すな!」
「うぁああっ!」
「ちぃ!」
再び飛びかかってきた敵ともみ合いになる。塹壕内部は狭く、白兵戦は熾烈を極めていた。
「げばっ!?」
飛びかかってきた敵をサーベルで殴り付けて吹き飛ばしたマクベスは周囲を見渡す。
「なっ!?」
その視線の先には、筋肉質の大男が悠々と塹壕を乗り越えていく様子があった。
「あいつは!奴を通すな!撃て!」
マクベスの号令は乱戦の喧騒に掻き消された。その瞬間彼は悟る。全てが罠であったことを。
味方を全て囮にしたバンダレスは、愛用の大剣を片手に悠々と塹壕を越えた。
「随分と手の込んだ仕掛けじゃねぇか。クリューゲの馬鹿はこれに引っ掛かったんだな」
動きを制限する鉄条網と塹壕陣地、そしてそこから投射される凄まじい火力。バンダレスも最初は驚いたが、思ったよりも弾幕が薄かったことが彼に幸いした。
突破力に定評がある彼の指揮下の騎兵は脚の速い馬を選び抜いており、それら騎兵が塹壕内部に飛び込んだことで敵は混乱。その間に歩兵が塹壕に飛び込んで乱戦に持ち込めた。
「これじゃまるで戦争だな。そりゃあ攻め込んだら負けるわけだ」
だが独特な嗅覚でそれを見抜いたバンダレスは、その防衛陣地を出し抜くことに成功した。後は手下が全滅するまでに無防備な農園を荒らし回れば良い。バンダレスは背後の喧騒を聞きながら農園施設へ向けて走り出す。
「誰か奴を止めろ!くっ!」
マクベスは自ら追おうとするが再び他の敵に襲われて身動きが取れず、他の隊員も目の前の敵に集中しており、背後のバンダレスに気付けない。これでは護れない、そうマクベスが覚悟した瞬間。
「なんだぁ?お嬢ちゃん」
意気揚々と進むバンダレスの前に、赤を基調とした騎士服を纏った少女が立ち塞がる。
その少女は決して万全ではなく、三年間の奴隷生活で疲弊した身体を奮い立たせてバンダレスの前に立つ。全ては自分を忘れないで居てくれた、大切な幼馴染みのために。
「白光騎士団のエーリカ!これ以上の狼藉は許しません!我が主に仇成す貴方を、ここで斬ります!」
「へっ!フラフラじゃねぇか!けど、成りは良いな。殺さねぇでおいてやる!てめえで楽しむためになぁ!」
二人の激突が始まろうとしていた。
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