テラーノベル
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耳元で囁かれた声は、微かに震えていた。
驚愕よりも、恐怖よりも先に
彼は私との「再会」を心から喜んでくれている。
その慈しみに満ちた体温に触れた瞬間、私の胸は張り裂けそうなほどの愛おしさで締め付けられた。
「とにかく、ここにいたら危険だ。今の君の姿を誰かに見られたら、どんな目に遭うか分からない」
シエルは周囲の暗がりに鋭い視線を巡らせ、追っ手や野次馬がいないかを確認すると
持っていた傘を惜しげもなく放り捨てた。
そして、自分の上着を脱ぐと、それを私の頭からすっぽりと被せてくれた。
彼の残り香と体温に包まれ、冷たい雨の世界から切り離される。
「僕の馬車がすぐそこにある。そこで、ゆっくり話を聞かせて」
彼は私の肩をしっかりと抱き寄せ、半分人魚の体に戻りかけて感覚を失いつつある私の足
まともに歩けないその歩調に寄り添いながら、慎重に路地を抜けていった。
待機していた漆黒の馬車に、彼は私を壊れ物を扱うように座らせてくれると
御者に向けて手短に屋敷へ戻るよう命じた。
自らも素早く飛び乗り、扉を重々しく、けれど固く閉ざした。
激しい雨音が、馬車の屋根を無数に叩く。
外界から遮断された、密閉された二人だけの空間。
隣に座るシエルは、すぐさま座席に備え付けてあった厚手の毛布を手に取り、私を包み込んでくれた。
「寒かったよね。……ごめん、もっと早く君を見つけていれば。こんな思いをさせずに済んだかもしれないのに」
彼は私の隣にぴったりと寄り添い、震える私の手を自分の大きな両手で包み込むようにして温めてくれる。
膝にかけた上着の隙間から、私の足首が覗く。
そこにはまだ、消えきらない鱗が痛々しいほど鮮やかに光っていた。
シエルはそれを忌々しそうに見るどころか
まるで神聖なものに触れるような、深い慈愛を湛えた瞳で見つめていた。
「10年前、あの浜辺で君と指を絡めた時から、僕は一瞬たりとも君との約束を忘れたことはなかった」
「……君がどんな姿をしていようと、そんなことは関係ない。僕にとっては、君だけが唯一の代わりのいない大切な人なんだ」
馬車の揺れに合わせて、彼のしっかりとした肩が私の細い肩に触れる。
その確かな重みと、私を肯定してくれる言葉の温もりが呪いに怯え
孤独に震えていた私の心を、ゆっくりと、けれど確実に解きほぐしていった。
#ロマンスファンタジー
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