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エピローグ『共鳴の果てに』
空は、変わらずそこにあった。
雲は流れ、星は巡り、風は今日も誰かの頬をなでるように吹いている。
けれど、確かに“何か”が変わり始めていた。
アークの高層区。夜の展望回廊で、一人の少女が空を見上げていた。
——ノア。
浮遊艇《ヴォイス・アーク》が出発してから数日。新たな旅の準備を整えるまでの短い休息。
けれど、その短さが愛しく思えるほど、彼女の心は確かに動いていた。
背後には、ルウの柔らかな足音。
「また空を見てたんだね」
(空は、常に変わる。けど、本質は変わらない)
「うん。……私も、そうでありたいな」
“共鳴の塔”での出来事。
仲間たちとの出会いと別れ。
心の奥にあった恐れと、そこから生まれた光。
——すべてが、声として残っている。
ノアはそっと、胸元の紋章に触れる。
それはただの印ではない。
彼女の旅の証であり、誰かに応えたいと願った“意志”のしるし。
「もしも……この先、私の声が届かない場所があったとしても。
それでも、わたしは“呼び続けたい”って思う」
ルウは黙って寄り添った。
その沈黙は、肯定だった。
「きっとまだ、世界のどこかに眠ってる声がある。
それを見つけて、手渡して、また次の人に繋いでいく……
それが、わたしの——生きる意味、なのかもしれない」
夜風が吹いた。
その風は、あの日塔の頂で感じた“応え”に似ていた。
ノアは目を閉じる。
——声は、どこまでも続いている。
目には見えなくても、確かにそこに在る。
だからこそ、彼女は前に進める。
やがて、東の空に微かな光が差し始めた。
新しい朝がやってくる。
ノアは静かに言った。
「行こう、ルウ。まだ知らない声が、私たちを待ってる」
(ああ)
そしてふたりは歩き出す。
それは、ひとつの物語の終わり。
けれど、すべての物語の——始まりでもあった。
——“共鳴の果て、君は神話になる”。
エピローグ・完