テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第65話 〚 視線の向きが、違いすぎた〛
⸻
――海翔視点
「“澪だけに向く視線”が許せない」
ホテルに戻る電車の中。
澪は、
窓の外を見ていた。
笑っているわけでも、
落ち込んでいるわけでもない。
——ただ、
静かだった。
(……まただ)
海翔は、
その横顔を見て、
奥歯を噛みしめる。
今日一日。
真壁恒一の視線は、
ずっと——
澪だけに、
向いていた。
迷子になった時も。
戻ってきた時も。
謝る時も。
「ごめんね、澪」
——その一言。
他の七人を、
完全に無視した言葉。
(……違うだろ)
謝るなら、
全員にだ。
時間を奪ったのは、
班全体だ。
見られなかった場所も、
全員の楽しみだった。
なのに。
澪だけを、
特別みたいに扱う。
それが。
一番、
危険だった。
(澪は、
悪くない)
(でも、
“選ばれる立場”に
置かれてる)
澪は、
断れない。
優しいから。
気を使うから。
——だからこそ。
海翔は、
決めていた。
(これ以上、
澪を
“一人にしない”)
(誰かの都合で、
視線を集中させるのを、
許さない)
視線を感じて、
海翔は、
真壁の方を見た。
目が合う。
一瞬。
真壁は、
少し嬉しそうに
笑った。
——その笑顔が、
海翔には
決定的だった。
(……違う)
(これは、
勘違いじゃ済まない)
海翔は、
心の中で、
はっきり線を引いた。
⸻
――真壁恒一視点
「謝ったのに、なぜ嫌われるのか分からない」
……意味が、
分からなかった。
俺は、
ちゃんと謝った。
澪に。
一番、
大事な人に。
なのに。
空気が、
おかしくなった。
えまも。
しおりも。
みさとも。
りあも。
海翔も。
玲央も。
湊も。
——全員。
目が、
冷たかった。
(……なんで?)
(謝ったのに)
(澪は、
「いいよ」って
言ってくれたのに)
俺、
間違ってないよな?
澪が、
一番大事なんだから。
澪に謝るのが、
一番正しいだろ?
(それなのに……)
誰も、
俺を見ない。
話しかけても、
反応が薄い。
笑っても、
笑い返されない。
(……まただ)
クラスでも、
こうだった。
(俺、
何か変なこと
言ったか?)
(いじってないし、
褒めただけだし)
(ちゃんと、
澪のこと
考えてるのに)
頭の中で、
ぐるぐる回る。
「俺、
悪くないよな……?」
小さく、
呟いた声は、
誰にも届かなかった。
隣を見ると。
海翔が、
澪の近くにいる。
自然に。
当然みたいに。
(……なんで)
(俺は、
同じ班なのに)
(同じ部屋なのに)
(なんで、
あいつだけ
あんなに近いんだ?)
分からない。
分からないまま。
真壁恒一は、
“拒絶”を
“嫉妬”だと
勘違いした。
——それが、
一番、
危ない理解だと
知らないまま。