けほ、と花を吐く。
わかっている。かなうことのない恋だと。
あのひとにてはとどかないと。
…花吐き病は恋が叶うと治る。
恋をしていなければかからない。
なら、なら、この恋を、あの人を忘れ去って、無かったことにすればーーー
俺はもう、1人で歩いていける、から…
足掻く。足掻く。忘れないでと叫び続ける。
さみしい、さみしい。ひとりはさむい。
いた事を残したい。あの子の生きた証を残したい。
なのに。なのに。なんでわすれちゃったの?
大丈夫。これがあの子の幸せなら耐えられる。耐えられるから。
でも、でも。とてもさむくてさみしいんだ。
きづいちゃった。
ぼくはひとりであるきたくはない。
忘れた人間と忘れない不死者の話
「…ほんとうにいいのか?公子殿」
「うん。いいんだよ。」
「父様が相手な以上、気休めにしかならないと思うが…」
「気休めでも、お願い。」
「公子殿は…いや。わかった。始めよう。」
縁が弱くなった。
そんな気配がした。
気になったからタルタリヤに会いに行こうとした。
受付のエカテリーナさんに止められた。
あの子に頼まれたからだと。
鍾離に会いに行った。
タルタリヤが自分の意思で俺を忘れたのだと伝えられた。
そうか、と思った。
そこからほとんど会うことは無かった。
いいじゃないか。あの子が幸せなら。
会っても初対面として話をしていた。
たまに会うただの友人として話もした。
でも、なんだか体がひえてくる。
でも、大丈夫。
大丈夫。
旅人に心配された。
なんだかんだ言って口裏合わせに巻き込んでしまったから、申し訳ない気持ちがいっぱいだ。
旅人たちの旅の中では色々あった。
フォンテーヌでは本当に色々あった。
内緒であの子の怪我を自分に移したのもバレてないようだし。大丈夫だろう。
スネージナヤでも、バレないよう駆け回った。
氷の子には悪いけど、あの子が思い出さないようにするためだから…
あと少し。
このさみしさもあと少しの間だけだ。
ふふ、やっと、ここまで来れた。
きっとバレてはないだろう。
あの子たちの生きる世界は守られるべきだ。
このさみしさはきっとなくなるだろう。
だからーーーー
「父様!」
「…どうしたんだい?」
「なんで…」
ああ…見つかってしまった。
でも、もう遅い。
「…ごめんね。」
アビスを包んで砕いて扉の中へ。
そして私諸共閉じてしまおう。
死者は、いなくなるべきだから。
箱舟の仕事をしなければ。
「…ししょう?」
冥府に繋げるために、現世と断絶させるために扉を閉じたとき、あの子の声が聞こえた気がした。
ああ、寒いなぁ…
ぱたりと扉が閉まり、砂になっていく
長きを生きた者たちは、後悔をする。
縁を繋いだ者たちは、後悔をする。
そして、忘れたはずの彼はーーーーー
「けほっ…ん?なんだろう、コレ。…花びら?」
命の花をまた咲かせている。
それから1年後万民堂にて…
「公子殿…それは…?」
「こほ、ん?ああ。あの戦いの後からなんだかおかしくってね。鍾離先生。これ、どんなものなの?」
「…花を吐き出すという症状に当てはまる病は、一つしか無い。だが、公子殿はもう二度とかからない筈の病だ。」
「はあ?でも、それだったら今の状況はどうなるのさ?」
「ああ。だから今俺は困惑しているんだ。」
「で、これはどんな病気なのさ」
「…これは、花吐き病と言い、恋を拗らせた者がかかる病だ。」
「はあ?恋?そんな病あるの?」
「はぁ…だから公子殿にはもうかかることのない病だと思っていたんだ。」
「…ん?ちょっと待って?その口ぶりじゃ俺がかかったことがあるって言っているみたいじゃないか。何か隠してるよね?先生?」
「まあ、進行してないなら大丈夫だろう。」
「おい!これ絶対隠してるだろ!言え!教えて!!!鍾離先生!」
「関係ない!関係ないと言っているだろう!!!!」
「記憶の中の空白に今気づいたから教えろ!!!!」
「無茶を言うな!!!!」
「もう知らない!相棒に聞いてくる!」
「待て!公子殿!旅人は今忙しいんだ!だから止まってくれ!」
「いーや、俺は行くね!強行突破だ!」
「踏みとどまれ!公子殿!!」
「魔王武そーーー「どうしたの?タルタリヤ。」相棒!聞いてくれ!鍾離先生が俺に隠し事をするんだ!」
「…聞くけど、隠し事って?」
「昔深淵に落ちてからの記憶にある空白のことなんだけどーーー」
「嫌な予感がする」
「スカーク師匠の他に手ほどきをしてくれた人が居るような気がするし記憶の空白も丁度人一人分d」
「ごめんタルタリヤ残念ながら俺にはわからないことみたいだじゃあ用事があるから去るよ。」
「まあまあ待ってくれ相棒!一緒に探すとかでもいいから、さ!」
「俺には!無理!!!!」
「なんでさ!」
「意地でもいわないよ!!!!!」
「ねえねえ旅人ー!最近流れている噂知ってるー?青い旅人の話!なんか鈴風さんの縁者みたいで…」
「香菱ストップ!!!!」
「すず、か?すずか、鈴風…」
「公子殿!?」
「せっかく、自分の意志で鍾離先生に頼んだのに…馬鹿だな…おれ…」
「大丈夫タルタリヤ?」
「せんせぇ…どうしよう…おれ、全部思い出しちゃった…鈴風さんは、どうなったの?」
「…父様は…」
吐き出されるのは、花びらのみだった。
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