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「えっ··と、泊まっていいの···?」
元貴が少し困ったようにして部屋を見渡した。
この様子だと居もしない彼女のためなんじゃないか、なんて思っていたんだろう。
「元貴がいいなら···そのために部屋も片付けたし」
半ば願掛け、元貴に振られたらクリスマスに飾り付けた部屋でクリスマスを祝う寂しい状況になるところだったわけで。
「若井がいいなら、泊まりたい」
そう言ってくれる元貴の頬にそっと触れる。
ずっとこうしたかった。
元貴が言ったことが俺も痛いくらいよくわかる、夢なんじゃないかって。
俺も長い間、元貴に片想いしていたんだから。
元貴は、どこか達観してて大人っぽいところがあるのに繊細で、あんまり友達もいなくって俺が側で守ってやらないといけないって感じていた。
一緒にいると楽しくて音楽とかゲームとか好きなものが同じなのも嬉しくて、何より不意に見せる甘えたような表情に胸が何度もときめくのを感じていた。
いつだったか俺の家に泊まりに来た時に話してくれたことを未だによく覚えている。
「俺、家族と旅行とか行っても自分のベッドと枕じゃないと落ち着かなくて。宿泊訓練とか修学旅行もほんとにほとんど眠れなくて···正直、若井の家に泊まりに行くのも最初ちょっと怖かったんだよね、また眠れなかったらどうしようって」
「···そうだったんだ、ごめん気づかなくて」
その時は泊まりにくるのが3、4回目で···俺はどこでも寝れるし眠りも深いから元貴の様子に気付くことが出来なかった。
「あっ、違うの·····よく眠れたんだ、若井の隣だったら」
なんか恥ずかしいな、と言いながらベッドの中、隣でモゾモゾと元貴は俺のほうに身体を向ける。
その時は予備の布団がなくて俺たちはぎゅうぎゅうになりながら寝る、というのが当たり前だった。
「なんか落ち着くっていうか···気づいたら朝までちゃんと眠れてた。最初は夜中までゲームしてたからかなとか色々思ってたけどやっぱりいつも寝れるんだ」
へへ、と笑って元貴は言うだけ言って満足したのか目を閉じた。
あの時、逆に俺のほうが眠れなくなってしばらくはドキドキして困ったのを、きっと元貴は知らないだろう。
嬉しくて、恥ずかしくて、好きな人にそんな風に思われていることが幸せで心底元貴のことが俺は大好きなんだ、これからもずっと一緒に居て元貴が嬉しいように幸せであるように出来る限り俺がこいつのこと守らなきゃって、はっきりと自覚した。
そこからは沼にハマるように元貴のことを大好きだと感じる日々だった。
けど、ひとつだけ気をつけたこと。
それは元貴の側にずっといるために気持ちを隠して、けど一番近くにいようとしたことだ。
気をつけながら、甘やかして、大事にして、一番側で友情か愛情かわからないような愛を常に元貴に与えて、いつか俺の事を好きになってくれないかなって下心を混ぜながらいつもいつも側にいるつもりだった。
「良かったらまた夜まで時間あるし、ケーキとか買いに行かない?イルミネーションも一緒に見たいし」
「俺も若井と一緒に見たい!」
元貴の笑顔を久しぶりに見えて嬉しくなる。出掛ける用意をしていると元貴がプレゼント開けてみて、と言ってくれる。
中には去年俺がプレゼントしたのに似たマフラーと黒くて大人っぽい手袋。
「ありがとう···早速つけていこうっと。···まるでお揃いみたいだね」
「あ、え、えっと···ごめん···」
元貴の顔が真っ赤になる。
それで俺は気づいてしまった、お揃いにしたくて似たのを買ったんだって。
「なんで謝るの?···ほら、俺も一緒」
俺は左手を元貴に見せる。
そこにはマットシルバーのリングがある。同じデザインの色違い。パッと見はバレないように···けどちゃんとお揃いのものを、俺は選んでいた。
「嬉しい···若井のそういうところ、好き」
手袋をポケットに入れて恥ずかしそうに笑う元貴の手を取って俺たちはクリスマスの輝く賑やかな街に出かけていく。
「すっごく綺麗···キラキラしてる」
チキンやケーキを買って帰りにあった大きなツリーに見惚れる元貴の瞳もイルミネーションを映してキラキラと光っている。
昨日までは友達だったのに、今は恋人としてこんな風に側にいるなんて、信じられない幸せが俺を包みこんでいる。
「寒いね、そろそろ帰ってパーティーしよっか?」
元貴がくれた手袋を左にはめて、元貴のにもう片方の手袋を渡した。
「え···寒いのに、いいの?」
元貴の手袋をしてない左手を俺の右手でそっと繋ぎ止める。
「ほら、これで寒くない」
「···うん、あったかいね」
周りにはたくさん人がいるけど、賑やかにツリーやイルミネーションを見あげる人たちは俺たちのことなんかちっとも気にしてない。それに見られたってこの手を離すつもりはなかった。
俺たちはゆっくり家まで手を繋いで帰った。
冬の空は澄んでいて夜空に輝く星はいつもより光って見える。
沖縄での夜を思い出す。
まるで世界に2人だけみたいな幸せな夜だった。
コメント
2件
片思いだと絶妙な距離って難しい( ˘•ω•˘ ;)ムー でも思いが通じて本当によかった~︎💕