テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「おい、あの女子高生二人組、さっきからこっち見すぎじゃねぇか?」車に乗り込むなり、俺はバックミラー越しに校門前を盗み見た。
制服を着た女子生徒が二人、まるで未確認飛行物体でも目撃したかのような顔で俺の車を凝視している。口をあんぐりと開けて、なにやらヒソヒソと顔を見合わせている様子がミラー越しでもはっきり分かった。
「ああ、同じクラスの莉子ちゃんたちですね」
渚はシートベルトをカチリと締めながら、心底どうでもよさそうに窓の外へ目線を送る。
「なんかすっげぇ目で見られてるぞ。俺、なんか変なことしたか?」
「別に。峯岸さんが全身から『ヤバいオジサン』のオーラを出してるからじゃないですか。柄の悪いスーツに、くわえタバコで校門前に横付けですからね。普通の女子高生なら警察呼びますよ」
「俺がその警察だっての」
呆れ半分で鼻で笑い、ギアをドライブに入れた。アクセルを踏み込むと、古いエンジンの駆動音が夕暮れの街に低く響く。
「……ねえ、峯岸さん」
渚がふと、手元のスマホをいじりながら思い出したように口を開いた。
「さっきの二人、たぶん盛大に勘違いしてます」
「勘違い? なにをだ」
「私が生活費に困って、怪しいオジサンにパパ活か援交でも買われてるんじゃないかって顔してました」
「……ぶッ!?」
吹き出しそうになって、危うくアクセルを踏み込みかけた。バックミラーに映る自分の顔を慌てて確認する。確かに無精髭に乱れた髪、疲弊した目元。……擁護のしようがないほど「質の悪い客」に見えなくもない。
「おいおい笑いごとじゃねぇぞ! 補導する側が補導対象買ってると思われたら俺のクビが飛ぶわ!」
「大丈夫ですよ。もし学校で噂になったら『ただのパパ活だよ』って言っておきますから」
「余計に首が飛ぶわ!! ちゃんと『親戚の警察のおじさん』って言え!」
「えー、面倒くさい。それに『警察』って言うと、別の意味で噂が跳ね上がりそうですし」
渚はくすりと小さく笑うと、背もたれに深く体を預けた。
クラスで「不思議ちゃん」と遠巻きにされ、孤独を背負っているはずの少女が、俺の前でだけ見せる16歳らしい生意気な口調。
噂になろうが、警察に怪しまれようが、知ったことか。
俺はバックミラーに映る校門前の女子生徒たちを視線から追い出し、ウインカーを出して車線を変更した。
「……まあいい。とにかく今は佐々木の野郎の部屋だ。冷めたポテトの前に、きっちり真実吐かせに行くぞ」
「はーい。あ、言い忘れてましたけど、今日の幽霊さんが暴れん坊だったら峯岸さんが物理で抑えてくださいね」
「幽霊を物理で抑えられるかよ。お前が殴れ」
車内を包むくだらない雑談と、うっすら残るタバコの匂い。
勘違いされようが何だろうが、この歪なバディでしか救えない真実がある。俺は夕闇が濃くなっていくバイパスを、現場のマンションに向けてアクセルを踏み込んだ。
前職は舞妓
425
きょう
171
コメント
1件
あはは、パパ活と間違われる警察官って(笑)。峯岸さんの自覚あるクサさと渚の「面倒くさい」が絶妙にマッチしてて、車内の空気がすごくリアルに感じられたよ。『幽霊を物理で抑えられるかよ』のくだりとか、ギャグと真面目の塩梅がちょうどいい。クラスでは浮いてる渚が、峯岸さんの前でだけ見せる16歳の生意気な口調、すごく好きだな。歪なバディものの醍醐味が詰まった回だった!