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新年を迎えて数日後。野沢とかなで、そして矢島の三人は、浦和にあるモツ焼き専門店で酒を酌み交わしていた。
午前中、皆で凛子の墓に手を合わせた帰り道、なんとなく入ったこの店で。
「なんとなく新年会をやろう!」
と、言い出したのは野沢だった。
スマホの画像を見せながら。
「もうサイコー!」
と、上機嫌に笑う野沢を、かなでは揶揄うように。
「たばこやめたのに、そんなに飲んだら元も子もないですよ」
「ええ〜っ!?」
「もうお年なんだし、いっそのことお酒もやめたらどうですか?」
「やだよ、やだやだ、お年じゃなくてお年頃だろ?」
「はいはい」
「それよか写真さ、見てちょんまげ」
「はいはい」
かなでと矢島は、指紋だらけの野沢のスマホを覗き込んだ。
ベッドの中央で、正博とおおきな熊のぬいぐるみに挟まれている翔太の表情は、とびきりの笑顔だった。
野沢は。
「くっつき仮面だ!ガオガオ!」
と、叫んで笑った。
かなでと矢島も笑っていた。
あの出来事があってから、かなでの中で何かが変わった。
些細なこだわりや、小さなプライドに振り回される人生も、案外捨てたもんじゃないと思えた。
こうして笑って、時に泣いて、たまに怒り、ある時は妬いて、次の日には愛して、忘れた頃に苦しむ。
寝る前に想い、夢で遊び、太陽と一緒に目が覚める。ずっとそれの繰り返し。
それが生きている証なのだろう。
凛子から教わった気がした。
かなでは、テーブルの下で矢島の手を握りながら、平凡な日常に感謝した。
そして凛子や正博、翔太といった永遠の家族にも。
「ありがとう」
と、言葉を投げた。
おしまい。