コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ここまで頑張って胸糞な話を聞いていたコユキは静かに言った。
「良ーくわかったわ、アンタ等の心根が……」
善悪は無言のままであった。
リエが何故だろうか、少しうれしそうな感じで口にしたのである。
「うんっ! 皆がみんな、ユキ姉とヨシオちゃんの死を無駄にしない様に一所懸命考えてくれたんだよぉ! 良かったねぇ! 嬉しい? 嬉しいよねぇっ!」
コユキと善悪は色を消し去った表情で答えるのであった。
「あっそう」
「嬉しい? そう思うんだったらそうなんじゃ無いの、あーあ、あーあ、でござるよ……」
不愉快そうに返す二人にロット神が声を掛ける。
「下剤とか死んでも構わん発言は兎も角、『聖女と愉快な仲間たち』内の実力者がサタナキアを吸収すると言うのは悪い手では無いと思うんじゃが? なあ、皆、そうは思わないか?」
フューチャーが頷き、フェイトが返す。
「確かに…… さすればコユキと善悪が犠牲になる必要は無いだろうし、サタナキアを吸収した者が彼奴(きゃつ)の配下を従わせれば勢力が減る事も無い…… それどころか、コユキと善悪も生き残る事で、除染作業の捗(はかど)り方的には短期間で見れば、世界にとって良い事だらけなのでは?」
デスティニーは嬉しそうだ。
「おお、良いじゃんか、二人とも死なずに済んだね、万事丸く収まったか!」
「キョロロン!」
カイムも歓喜の叫びを上げたが祖母であるトシ子は無言でコユキを見つめるだけであった。
コユキは深い溜息を吐いてから、一人一人の目を見つめながら言う。
「そんなのダメに決まってんじゃないの…… そもそもその提案をサタナキアが受け入れると思ってんの? 嫌がるに決まってんじゃん! 普通に断られると思うけどそしたらどうすんの? まさか、世界の為だって言って無理やり誰かに取り込ませるつもりじゃ無いでしょうね? 世界の為だ、犠牲もやむを得ない、って前回までで胸糞悪いの反省したんじゃなかったの? どうなのよ?」
『……』
「ま、そうなるじゃろうな……」
トシ子の呟きに返せる声は無い様だ。
顔を伏せ沈み込んだメンバーを慰める様に善悪が言う。
「ま、ま、皆が僕チン達の事を考えていてくれたのは、良く分かったし素直に嬉しかったでござるよ、ありがとね、兎に角、サタナキアの元へ急ぐでござるよ! 誰かが先走らない内に、途中で仲間達と合流しながら可及的速やかに向かうのでござるよ!」
コユキが慌てた様子で言う。
「善悪! 味方全員に止まる様に通信しようとしたんだけど駄目だわ! 秋沢明と結城さん、それに丹波晃君と狩野さん弟達が一斉に返事してきて何言ってるか分からないからいったん切るわよ、あ、馬糸と民生さんも話し出したわ! プツっとな! なんでだろう?」
善悪は納得の表情で言った。
「そりゃ死んだら死んだで構わん、とか言ってる面々なんて厳密には味方じゃないって判断なんじゃないの? それか、自分がサタナキア喰うために意図的に無視しているとかかな? 兎に角、誰か一人に集中してさ、もっと強い念で通信してみたらどうでござる?」
なるほど、言われてみればどちらも有りそうな話であった。
「そうね、こりゃ急いだ方が良いわね! 取り敢えずお婆ちゃんはアスタに存在の絆で連絡取って止めて頂戴! ここら辺のレッサーは倒し切っちゃったみたいだし…… アタシと一番絆が強そうなのは、オルクス君、ううん違うわっ! よし!」
『もしもし、モラクス君! 今どこに居んのよ? アタシ達はクラックから侵入した辺りでリエやリョウコ達と合流した所なのよ! そっちとも合流したいんだけど!』
なるほど、言葉が拙いオルクスでは無くてモラクスであれば、他の弟妹に連絡網を行き渡らせるハブに出来ると踏んだ訳か…… 賢い選択だ。
兄弟の中には口白と絆を結んでいるアジ・ダハーカや、カルラと親しいシヴァ、バアルと主従関係にあるアルテミスもいるのだから、ほぼ全員を止める事が可能だろう。
問題はバアルが言った所で狂信者のイーチが止まるかどうかと言った所だろうが、その際はコユキと善悪が直接連絡を入れて止めるしかないだろう、仕方が無い。
そんな事を考えて結構な時間が経過していたが、どうしたのだろう? モラクスが通信に答える気配がない。
コユキは首を傾げてから再度存在の絆通信を試みたのである。
『モラクス君? 大丈夫ぅ? もしもし、もしもーしっ! もーしっ、もぉーしぃーっ!』
『…………は、はいっ! すみません今余り余裕が無くてですね、おっと! えっと、そちらから左手側に回り込んだ、ウワッ! あ、危なかった、丘を越えた所に、くっ! います! うおぉっ! ちょっ! まっ! ――――』
プツリ…… しーん
「どうでござる? 連絡できたの?」
善悪の声に答えるより早くコユキは動き出すのであった。
「ちょっとヤバそうだったわ! 『回避の舞(アヴォイダンス)』先に行ってるわねえぇぇ――ェ……」
ススススッと残像を残して左側に消えてゆくコユキをリエがダッシュで追いかけ、残されたメンバーは善悪を先頭にしてドタドタとニブルヘイムを駆けて行くのであった。
因みに殿(しんがり)はスカンダとガネーシャの兄弟であった。