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コメント
5件
月姫と話し合って急遽ホラー部門に変更させて頂きます
これ絶対ホラー部門に変えた方が いいって!!!!! まじ正直大賞級なんだが。 なんかホラー要素ばりばりあるのに 最後の「どこまでも続くんだから!」 ってちょっと面白味いれてくんの 最高〜👍🏻
斜陽が沈んでいくのを隣でぼんやりと眺めていた彼女が、ふと此方を向いた。
「……ねぇ、どこまで行くの」
今の状況に罪悪感を感じたのか、先刻とは打って変わって不安を滲ませた瞳でそう問うてくる彼女に少し悪戯心が沸いて、意地悪な回答をしてみる。
「満足するところまで行こうよ。逃げたいんでしょ」
「……………」
此方を睨むような素振りを見せながらも、私の回答に関しては特になにも言おうとしない。
どこまでも続く線路を走る電車の、一番端の席。
輪郭のない回答をする私に呆れたのか、彼女はまたこちらを睨んだあと、諦めたように袖仕切りに体重を預けた。
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彼女は今日、めずらしく弱っていた。
彼女にとって話す相手なんて有り余るほどいるはずなのにわざわざ私のところに来たこと。
いつもは綺麗に隠している性格の黒い部分が、だだ漏れだったこと。
廊下ですれ違う生徒や先生たちに、いつもは明るくハイテンションに対応する彼女が歪なアルカイックスマイルを浮かべていたこと。
行動の一つ一つがその証左だった。
職員室前の廊下には、表彰状や輝くトロフィーが飾られているガラス張りの棚がある。
一朝一夕には成し得ない努力の結晶が集まったそれは、ちょうどよく反射するという理由から女子生徒が前髪を直すのによく使われている。
その中の何個かに名前を連ねる彼女は、今はただ私の後ろに黙って着いてくるだけの野良猫のようなものだった。堂々と部活をサボることを伝えに行くと、顧問は私の後ろにいる彼女を見て少し訝しげな表情をしたあと、結局いつも通り叱ってきた。なんだよ、叱らない流れだったじゃん。
彼女の腕を引き、最寄り駅につく。
リュックのサイドポケットから定期を取り出す。二年も同じことを繰り返していれば頭が空っぽでも自然に手は動く。いつもと同じホームへ下る階段に足を向けた途端、されるがままだった彼女が急に腕を引っ張った。
「………逃げよう」
「ん?」
「逃げよう、家とも学校とも真逆のとこ行こう」
「…ボウリングとか?」
「そういう真逆じゃない。もっと、遠いとこ」
「距離的に真逆ってこと?じゃあこっちの階段か」
「え、本当にいいの?」
自分で言ったくせして私の返答に驚きを隠さない彼女に、先程の言葉を反復して聞いてみる。
「逃げたいんでしょ?」
「…うん」
「じゃあ逃げようよ」
返答も聞かずに彼女の手を引いて、名前も知らない駅が終点の電車に乗り込む。握った手を離さずそのまま空いている席に滑り込むと、彼女は状況に追いつけていないのか口をパクパクさせた後黙ってしまった。なんか、金魚みたい。
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〘_____お出口は左側です〙
最後言葉を交わしたのは30分以上前。
周りに人がいないからか、やけに響いたそのアナウンスを聞き間違えるはずもなく。少しつついたら倒れそうなこじんまりとした駅が遠くに見えてきて、ただ静かに外を眺めていた彼女は、ゆらりと立ち上がった。
「このまま降りなかったらどうなるんだろうね」
「馬鹿じゃん。終点なんだから降りなきゃ」
「ここどこか知ってる?」
「知るわけないでしょ」
「帰れるかな?」
「いつかはね」
「帰りたいの?」
前を歩く彼女の足が止まり、またどこまでも静謐な静寂が流れる。本当に馬鹿だね、君は。
「……帰らなきゃいけないでしょ」
「帰らなくていいなら?」
「………そ、れは」
「ほら見て、あっちのホームまだ線路続いてるよ」
「ねぇ」
「行ってみよっか」
やっと目が合った彼女に微笑む。先刻より少し強張った背中を優しく叩いて腕を引っ張る。
この丸い丸い地球を一周しよう。
大丈夫、迷うことなんてないよ。だって線路はどこまでも続くんだから!
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月姫のコンテスト.より
一次創作ホラー部門に参加させて頂いた作品です。
ホラーといいつつ、結局歪んだ愛になってしまいました。少し読むのが難しい話になってしまいましたが、楽しんでもらえたら幸いです。
テラーデビュー作にもなる作品なので時間に余裕を持って筆を進めていたのですが……時間の流れはあまりにも早い。
二人は線路に沿って、どこへ向かうのでしょうか。
‘‘私’’から‘‘彼女’’へのどこまでも純粋な愛が歪んだ世界に変えられてしまわないよう、願っています。