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窓の外では、音もなく舞い落ちる雪が公爵邸の広大な庭園を
音さえも吸い込むような静謐な純白の世界へと染め上げていた。
かつては「氷の城」と近隣の住民からも恐れられ
近寄る者さえ撥ね退けるような死の静寂と、禍々しい呪いの気配に支配されていたこの邸宅。
しかし今、そこには暖炉ではぜる薪の心地よい音と
キッチンから漂う焼きたての菓子の甘い香り
そして何より、確かな「愛」を糧とした柔らかな生活の匂いが満ちている。
「……ルネサンスってば、また、こんなところで。そんな薄着では風邪を引いてしまいますわよ?」
重厚な黒檀で造られた書斎の長椅子。
開いたままの本を胸に乗せ、微睡んでいたルネサンスの肩に、私はカシミアのショールをふわりと掛けた。
流れた数年の歳月は、かつて軍人としての鋭利な険をまとっていた彼の美貌に
驚くほど穏やかで、深みのある慈愛の色を与えていた。
プラチナブロンドの髪が、暖炉の光を反射してさらりと揺れ
彼はゆっくりと、深い湖の底を思わせる蒼い瞳を開く。
そこにはもう、かつて初めて出会った日に私を射抜いたような、人を寄せ付けぬ冷徹な光はない。
ただ、春の海のように凪いだ、深い、深い慈しみだけが宿っていた。
「……ヴィルか。すまない、少し昨夜の疲れが残っていたようだ。君の側だと、どうにも永年培ったはずの警戒心が、跡形もなく緩んでしまう」
「ふふ、公務がお忙しいのは重々承知しておりますが、無理は禁物ですわ。……それとも、またあの懐かしい『呪い』の予兆でもありましたか?」
私が少しだけ悪戯っぽく、白雪のような指先で彼の端正な頬をなぞりながら微笑むと
ルネサンスは降参したように、幸せそうな苦笑を漏らした。
そして、私の手首を大きな、けれど羽毛に触れるような優しさで掴み
そのまま有無を言わさぬ自然な動作で、私を自分の膝の上へと引き寄せた。
「……ああ、そうだ。酷い熱だ。君の魔力による献身的な『治療』がなければ、今にも意識を失って倒れてしまいそうだ。……ヴィル、私を助けてくれ」
「まあ。いつの間に、そんなに甘い嘘がお上手になられましたこと?昔の貴方が見たら、腰を抜かして驚きますわね」
重なり合った肌から、じわりと伝わってくる温度。
それは、かつて私を
そして彼自身を焼き尽くそうとしたあの暴虐的で孤独な「呪いの熱」では、決してない。
どこまでも穏やかで、心地よく、いつまでも触れていたくなるような───