韓洋の言葉を背に受けながら、三反園とひよりは警察官らと共に、事故現場とされる505室へと急いだ。シングルルームの短い通路の先にはベッドが置かれており、そこには女性ものの下着が綺麗に畳まれていた。
玄関脇のバスルームの灯りは落ちているが、ほんのりと立ち込める湯気と、石鹸の香りが人の存在の証を知らしめている。
だが、そこで目にした光景に、三反園は言葉を失った。
浴槽に張られた湯の中で、エイガは息絶えていたのだ。
ゆらゆらと揺れ動く綺麗な髪の毛と、ほのかに赤らんだ身体が、救急隊員の懐中電灯に照らされている。
その光景を目の当たりにして、ひよりは思わず呟いた。
「酷い…」
救急隊員や警察官、そして従業員の声が響く。
「ダメだ…死んでます、とりあえず引きあげて!」
「こちら新川崎ハイアット。えー、応援よろしくお願いします」
「面倒だな、参ったな…」
「防犯カメラを見せて貰えますか?」
「はい、わかりました」
「こいつ、男か…?」
救急隊員の言葉を受けて、三反園はエイガの身体を引きあげて、そっと浴室に横たえた後にタオルをかけた。
警察官が慌てて言った。
「勝手な真似はやめてください!」
「責任は特捜の三反園が取る!上に伝えて下さい」
「しかし…」
「この案件は特捜が預かります!」
そう言い放った三反園は、エイガの濡れた身体や顔を、タオルでやさしく拭い始めた。
ひよりはぐっと唇を噛み締めて、操り人形の如く葬られた若者に祈りを捧げた。
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