テラーノベル
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ナッキはサニーの体に比して、倍も有ろうかという石を丸ごと口に入れ、表面を覆ったコケを舐め取った後、残った石を吐き出してから言葉を続ける。
ペッ! ガンっ!
「うん、実は子供達の中にね、自分が好きな餌しか食べない我が儘(わがまま)な子が居てね、コケとかは食べるんだけどさぁ、どうすれば良いと思う?」
「もぐもぐ、へー、カエルの子?」
ペッ! ゴンっ!
「ううん、魚類なんだけどね、ボウフラが嫌いなんだってさ」
「もぐもぐ、珍しいね、あんなに美味しいのにさ、もぐもぐ、食わず嫌いかなぁ? ごっくん、一度無理やりでも食べさせてみたらどうだろう?」
ガランゴロンっ!
ナッキの口から大きな石が落ちて転がる。
――――す、好き嫌いじゃなかったか…… じゃあやっぱりダイエット、か? いづれにしても健康上良くないし、大きくなるためには沢山食べるしかないんだ、僕自身も昔ヒットに言われたし、よしっ!
「そうだね今度試してみるよ、兎に角お腹いっぱい食べる癖をつけないと何時まで経っても大きくなれないじゃない? ねえ?」
「もぐもぐ、だねぇ、僕なんかどんな餌でもお腹いっぱい食べるけどねぇ、もぐもぐ、食べるのも好きだし、ごっくん、でも何故か小さいままなんだけどね、てへへ」
ガラガラガラっ!
――――ち、違った、ダイエットでもなかったみたいだ…… 言われてみればさっきから凄い勢いで食べ捲っているじゃないか! えーだったら何でボウフラを食べに行かなかったんだろう? ボウフラ美味しいじゃん? はてな?
ナッキが考えているとサニーが食事を中断して話し掛けて来たが、その顔は微(かす)かに赤らんでいた。
「す、好きって言えばさぁ、ナッキはまだ婚姻色とか出ていないよね? な、何でなの?」
「え? ボウフラが何だって?」
「いやボウフラじゃなくてさ、婚姻色ね、この三年間でまだ出てないよね? 何で?」
「ええー、何でだろう?」
魚類の婚姻色は、無論同種、若しくは繁殖可能な近接種に婚姻期を知らせる物である。
通常、怪我や病気の回復中や周囲の環境の激変等、特別な理由が無い限り、春から秋に掛けてその身を美しく彩る。
それ以外の理由では、近くに居る不特定多数に対して繁殖を求めていない場合、つまり、心に決めた相手がいるか、若しくは番(つがい)が近くに居ない場合が考えられる、所謂(いわゆる)、操(みさお)を立てるってやつである。
サニーは首を傾げているナッキに対して質問を続けた。
「ナッキは誰か居ないの? そ、その、す、好きな相手、とか?」
「ん? 池の仲間は皆好きだよ、王様なんだし当然じゃないの?」
「そ、そうじゃなくてさ」
「違うの?」
サニーは真っ赤な顔のままで、視線をナッキから逸らしながら言葉を続ける。
「ほらぁ、僕たちギンブナってさっ、他の魚類やフナと違ってさ、メスのクローンとして生まれるじゃない? だからオスは卵の生殖発露の切欠(きっかけ)に過ぎないでしょ? つまり他種や他のオスじゃなくて自分が切欠、父親だって主張する為に相手、奥さんの婚姻色に答える訳でしょ? ヒットやオーリみたいにさ、まさかナッキが他種のフナと有性生殖をするとは思えないしさぁ、なんで池中の発情したメス達に繁殖しないのかな? ってさ、僕何かちょっとだけ気になっちゃってねぇ~、えっと、ナッキってオスなんだよね?」
ナッキは漸(ようや)くサニーの言っている意味を理解したようで、得心のいった顔つきで答えるのであった。
「ああーそう言う事かぁ! うん、確かに僕はオスになったよ、もうずっと前、生まれて直ぐの事だけどね、今もだけれど兎に角ヒットに憧れちゃっていてね、彼が『良し、俺オスにするわ』なんて言った時にね、勢いで性転換したんだよ! 只別にねヒットみたいに好きなメスが居るからって訳じゃなくてね、オスの方が戦闘向きでゴツクなるでしょ? それでなんだよぉ! まあ、子供じみてるかもだけどねぇ、ははは! サニーは? なんでオスを選んだのさ? やっぱり強くなりたかった、とかなのかい?」
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