日本視点
高校生活が始まって、二週間。
慣れない環境に、少しずつ慣れたような、まだ浮いているような──そんな毎日。
アメリカさんは相変わらず明るくて、話しかけられるたびに周りが笑顔になる。
ロシアさんはいつも静かで、誰ともほとんど話さない。
その二人が、どういう関係なのか、僕はまだよく分かっていなかった。
けれど──
自分に向けられる二人の視線だけが、妙に“重い”ことだけは気づいていた。
「日本、また一緒に帰ろうぜ」
放課後の教室。アメリカさんの声は、いつも通り軽やかだった。
「え、あ……はい。ありがとうございます」
つい敬語で返す。
アメリカさんは「敬語いらないってば」と笑いながら、僕の頭に軽く手を置いた。
……まただ。
その仕草に、周りの女子たちがクスクス笑っている。
僕は苦笑いでごまかすけれど、胸の奥に何かが残った。
アメリカさんが嫌いなわけじゃない。むしろ、優しいと思う。
けれど、どうしてこんなに近いんだろう。
ふと、視線を感じた。
ロシアさんが、こちらを見ていた。
無表情のまま、黒い瞳だけがじっと動かない。
目が合った瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
ロシアさんはすぐに目をそらしたけれど、その一瞬に、何かが突き刺さるように残った。
──怖い、とは違う。
けれど、心臓が落ち着かなくなる。
「なぁ、日本。明日、朝一緒に行こうよ」
「……え? あ、でも──」
「決まり。待ってるから」
アメリカさんの笑顔は、いつも通り明るい。
なのにその裏に、何か見えないものがあるような気がしてならなかった。
その日の夜。
ベッドの上で、日本はスマホの画面を見つめていた。
アメリカさんからは「おやすみ」のメッセージ。
ロシアさんからは──何もない。
でも、なぜか無言のほうがずっと気になった。
目を閉じると、アメリカさんの笑顔と、ロシアさんの冷たい瞳が交互に浮かぶ。
胸の奥で、ざらりとした感情がゆっくりと広がっていく。
──どうして、二人のことを考えてしまうんだろう。
答えはまだ見えない。
ただ、静かに始まっていた。
自分が、誰かの特別になってしまう物語が。
コメント
3件
メチャ重くていいですね!