そうして、今日は、中華が自国へ帰る日だ。
あれからほとんど進展は無かった。
でも、炎露が時々言葉を返してくれ るようになった。
「もう1週間経ちましたアルネ」
家の玄関扉を開けたすぐそこで、中華と少しだけの立ち話。
玄関から少し離れた先にある、門の外まで送る予定だ。
「あぁ、本当に、。この1週間辺りで色々な事が起きたから、余計に早く感じる」
そんな事を言いながら、この場所から見える炎露の部屋の窓に目をやった。
人影は見えなかった。
苦笑いを浮かべながら中華に何度目かの感謝と、この後も元気に過ごせ。なんて事を伝えながら足を進める。
「中華!」
あの日のように、背後から声が届く。
ただ今回呼び止めたのは俺ではなく、俺の隣りにいる大きなキャリーケースを手にした中華だ。
驚きと喜びが入り混じった感情を隠さずに俺は咄嗟に振り向いた。
「炎露アルカ?」
目を大きく見開いて確認するように中華は声を漏らした。
目の前に居るのは、間違い無く俺の弟の炎露だ。
目の下に隈も無いし、思っていたよりも痩せてはいない。
「あぁ。中華、その、ありがとう。お前のおかげで勇気が出た」
少しそっぽを向いて、照れくさそうに笑いながら炎露は言葉を紡ぐ。
「それは、良かったアル」
中華は嬉しそうに、炎露に向けてふんわりと笑って見せた。
「炎露。お前、本当に、っ」
気がつけば大粒の涙が俺の目から止め処無く流れていた。
「心配したんだぞっ」
嗚咽混じりの声で、何とか紡いだ言葉。
どこまでも青く澄み渡った晴天の下、俺は勢い有り余って炎露に飛び付いて抱きしめた。
もう、氷も雪も溶け残っていない。
残ったのは、溶けた氷の中から出てきた大きな喜びと、愛情だけだ。
それから中華は自国へ帰った。
また、ここに来ると言う約束をして。しかも次は、訓練やらでは無く、俺らに、炎露に会いに来る為だ。
中華、炎露にでも気があるのだろうか?
炎露は中華の事が恋愛的な意味で好きそうだしなぁ。
中華は良い彼女、いや、花嫁になりそうだし、炎露の花婿姿も良い。
なら、俺は全身全力で応援する事はできる自信がある。