テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
休日の朝。春のやわらかな陽射しがアトリエの窓から差し込んでいる。
フランスは、久しぶりにキャンバスを新調していた。
その中央に描かれつつあるのは、まるくて白いふわふわの……そう、スコティッシュフォールドのミル。
仏「……うん、そうそう。ミルはちょっと上向いて……そのままじっと……」
パレットを持ち、少し離れた位置で構えるフランス。
床に毛布を敷き、その上でくつろぐミルは、見事なまでのポージング。前足を揃え、ほんの少し首を傾げたその姿は、どこか王族のような気品すら漂っていた。
英「……本当に、モデルに向いてると思いますか、それ」
仏「いや、見てよ?この気高いポーズ。めちゃくちゃいい構図でしょ」
英「……まあ、今は……ですけど……」
その言葉が終わるのを待たず、ミルはふわあっとあくびをして、ゆっくりとごろんと横倒れになる。
仏「えっ……ちょ、ちょっと、ミルさん……⁉」
英「……言わんこっちゃないですね」
ミルはそのまま足を伸ばし、まどろみの世界へ。
先ほどの姿勢は一瞬の奇跡だったらしい。
仏「も〜〜〜〜……ああ、でもかわいい……くっそ、描く……寝姿でも描く……」
あきらめきれず、筆を走らせるフランス。
描いては消し、角度を変え、毛並みの柔らかさを追う。
英「……本当に器用ですね、あんた」
仏「ふふん。僕の愛情は、筆先に乗るタイプだからね」
英「はあ。……じゃあ、ミルが寝返りうったときのために、横向きの構図も用意しておいた方がいいですよ」
仏「……うん、それはマジでそうかも……」
案の定、十数分後にはミルがごそごそと寝返りをうち、こんどはおなかを見せて完全に無防備な格好に。
キャンバスの中のミルとはすでに別猫レベルである。
仏「ちょっとミルさん!? 撮影中ですよ!? そのお腹、さすがに警戒心なさすぎない!?」
英「……もう、その構図で描いた方が早いと思いますけど」
仏「うん……わかってる……でも見てるとね、描くより、なでたくなっちゃうんだよね」
英「それ、画家としてどうなんですか……」
そう言いながら、イギリスも隣に腰を下ろし、ぽすっとミルの頭を撫でた。
ぴくりと耳が動いて、のどの奥から「ぐるる……」という満足げな音が聞こえてくる。
仏「……ねえ、イギリス」
英「なんですか」
仏「この子がうちに来てくれて、本当に良かったね」
英「……はい。心から、そう思います」
キャンバスにはまだ完成しないラフな線。
けれど、部屋に広がるあたたかな空気は、それだけで一枚の絵のようだった。