20年近く前の、蒸し暑い夏の日。
幼いttはおもちゃのロボットをいじっていた。
おもちゃとは言っても、空き箱を組み合わせて作ったtt手づくりのもの。
今でこそ手先は器用な自覚はあるが、まだ幼いttが作ったそれは簡素で拙く、だいぶガタがきていた。
「やからぁ!あれはあの子が勝手に落ちたんです!家まで押しかけて…なに、私を疑ってるんですか!?」
「お母さん、落ち着いて…」
隣の部屋から耳を劈くような母親の声が聞こえる。
突然うちに訪ねてきたどこかの男女は、早口で捲し立てる母親にたじろぎながらも宥めようとしていた。
必死で耳を塞ぎ目を閉じる。
頭の痛みが強くなる。
そうしているうちに、女性がこちらの部屋に入って来た。
首から下げた名札には『◯◯市役所福祉課』と書かれているが、幼いttには読めなくて、目の前に座る若い女性に警戒するように上目に見た。
「…ttyくん、怪我はどう?痛くない?」
「…うん」
「目は?見える?」
女性はttの左目を覗き込んで、首を傾げた。
「……うん」
「…そっか。窓から落ちたんだね。何をしようとしてたのかな?」
「………」
「……ttyくん、お母さんは、、、」
押し黙るttに女性が小さな声で言いかけた時、勢いよく襖が開いた。
母は慌てる男性職員の手を振りほどくと、ttに駆け寄り、抱きしめた。
「もうほんま帰ってください!この子も怖がってますんで!!」
「…お母さん、、話を聞いて、、」
「なぁtty、この人達お母さんを疑って、ひどいよなあ」
「…ttyくん…」
母に抱いてもらえた。
知らない感覚に、嬉しいような、でもこれから起こる事が恐いような、信頼と混乱の狭間で目を閉じる。
その背に手を伸ばしかけたとき、優しい声と共に母の爪が肩に食い込んできた。
「tty」
「ぁ…………お、れは、、まどから、むし、、つかまえようとしただけ、、、じぶんで、おちた、」
「……そうゆうことです、帰ってください迷惑なんで」ニコ
…
また来るから、と男女は家を出て行った。
その後本当に何度か訪ねてくれたけど、背中を刺してくる母親の無言の圧に、ttの演技も嘘もどんどん上手くなっていく。
この時だけは、母が笑ってくれるから。
そのうち、この古くて暗い家には誰も来なくなった。
………
お腹が空いた。
昼におにぎりを食べて以降、水道水しか口にしていない。
時計を見ると日付が変わろうとしていた。
ガチャ
「おかえり…っ!」
仕事帰りの母親は駆け寄ってきたttを一瞥すると、酒くさいため息をついた。
「…」
ガサ
渡されたコンビニの袋の中には、おにぎりと菓子パンが複数入っていた。
「朝と昼の分も残すんやで」
右目で袋の中を覗くttを見ながら、母親は汗に崩れたメイクの下に、拒絶の表情をした。
「あんたがおらんければな、今ごろ別の人生があったんや。」
「死んだら良かったのに」
バタン!
母親は自室に入っていった。
閉じられたドアを見つめ立ち尽くす。
少しだけほっとする。
きょうもたたかれなかった。
なぐろうとするおかあさんからにげようとしてまどからおちてから、おかあさんはおれにてをださなくなった。
おれをみるとないたりおこったりしていたおかあさんは、そのかわりにとてもとてもつめたいかおをするようになった。
おれにはおかあさんしかいないから、いくばしょなんてないから、ここにいたいのに、どうしたらいいのかわからない。
うまれてきてよかったのかな?
苦しくて寂しくて真剣に悩んでいるのに、また腹が気の抜けた音を鳴らした。
袋からおにぎりを取り出すと、あっという間にがっつき食べてしまった。
敷きっぱなしの薄い布団に潜る。
ゴツゴツとした感触と、湿っ気の気持ち悪さ。
痛み。
孤独。
恐怖。
泣きたいけど、泣いたら益々嫌われる。
ロボットを抱きしめると、その首が外れる感触がした。
コメント
2件
辛…😭色々表現が生々しくて余計やばかったです、、、でも可哀想な⚡️さん…かわちい…🤦♀️