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『決戦のとき〜ノコギリソウ〜』
病院を包む結界がなくなり、|間髪《かんぱつ》容れずに真守の結界が今度は土蜘蛛だけを包み込む。
それを合図として病院内に一歩踏み込めば、真円結界では祓い切れなかった、妖や土蜘蛛の幼生が|跋扈《ばっこ》していた。
生臭い匂いは濃くなり、瘴気による|腐臭《ふしゅう》は吐き気を催す。
院内は妖気で倒れた人や恐怖で混乱している人。
妖から逃げている人、応戦している人。
中の状況がやっと把握出来た。
一言で言えば、病院の敷地内は混乱の極みである。
しかし、こちらとて日々妖と戦って来た|兵《つわもの》ばかり。人海戦術もお手のもの。
死者がまだ出てないことが救いだと思いながら、刀を振るうのだった。
それからは無心に前へと進み、愛刀で目に付いた妖を倒す。切る。薙ぎ払う。その繰り返し。
いつの間にか額に汗が浮かんで、愛刀を振るうと雫となり視界に舞った。
体が熱い。深呼吸する。
前を向けば、病院の廊下で倒れている人を襲おうとしていた妖がいた。
一気に肉薄して、一太刀。妖を切り捨てた。
妖の断末魔が廊下に響く。俺に切られた妖は姿はその場でボロボロになって消えてゆく。
それを最後まで確認することなく、すぐに後ろにいる救護班に声をかけて俺はまた階段を登って、土蜘蛛へと近づこうとしたとき
院内放送が響き渡った。
一瞬だけ、歩みを止めたが放送に耳を傾けながら、三階へと階段を駆け上がる。
『あと、五分で土蜘蛛の結界が解かれます。現在、病院内外の敷地。及び、一階、二階は救助完了!残すのは三階のみ。動ける隊員は三階に集結せよ!』
力強い放送に、院内に「あともう少しだ!」「頑張るぞっ」という、活気に満ちた声が背後から聞こえてきた。
俺もさっと手の甲で額を拭って、階段を駆け上がった。
階段を上がりきる。
辿り着いた三階はいやに静まり返っていた。
廊下には俺の呼吸とブーツの音だけが響いて──はっとした。
その静寂を破るように、天井から粘り気のある液体が、どろりとブーツの横に滴り落ちたのだ。
すぐに天井を見上げると大量の土蜘蛛達が待ち伏せをしていたかのように、一斉に俺に向かって飛び交ってきた。
「待ち伏せとは|小癪《こしゃく》な」
刹那、一閃。手前の個体を両断。
返し刀で左に忍び寄ってきた土蜘蛛の眼球を潰す。ぐじゅり、と不快な感触が柄を伝った。構わず前に足を踏み込む。
その隙を狙ったかのように足元に土蜘蛛が這い寄り、俺の足に噛みつこうとしていた。
大きく顎を開けたその瞬間こそ、好機。
逆に足を大きく振り上げて、鉄板が仕込んであるブーツを顎の中へと足をめり込ませる。
「馬鹿みたいに口を開けるから、そうなる」
呼吸を一つ整え、柄を握り返して円を描くように大きく薙ぐと、目の前の土蜘蛛達はバラバラになった。脚がビクビクと、動いて痙攣しているがお構いなしに踏み潰して腕と足を動かす。
床に土蜘蛛の残骸が落ちる前に、鞘で土蜘蛛の細切れになった体を払いながら前に進む。
あと数分後には本体の土蜘蛛との戦いが待っている。
この調子なら全力で戦えると思いながら、額に流れ落ちる汗を無視して、前へと突き進んだ。