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シュメール
126
#日記
QuartoMew
1,350
「きゃっ!」「うわっ!」
交差点で、主人公とヒロインがぶつかるという場面。
もはやベタすぎて、ギャグの文脈でしか見なくなったような場面が、今まさに私の目の前で起こっている。
女の子の方は見たことない娘だ。見逃してた? それとも追加キャラ?
何も分からないけど、ヒロインである事は分かる。
だって、頭上に好感度数値が浮いてるから。まだ0%だけど。
「だ……大丈夫ですか?」
二人に駆け寄って、声をかける。
駆け寄ってから、ゲームの世界なんだから、これで怪我をするわけが無いと気がついたけど、一応、心配してみる。
「ちょっと、どこに目を付けているの!」
「そっちこそ!」
二人は、私を無視してテンプレ通りの罵り合いを始めた。
くっ、モブの私には、入り込む余地が無いという事か。
ならばせめて……。
(ステータスオープン!)
頭の中で、念じてみる。ステータスオープンは、この世界で私だけが使える能力。
でも、その能力は単なるステータスチェック機能では無く、生い立ちから何から何まで読めるチート能力だ。
プライベートすぎる情報はなるべく見ないようにするけど、開示されちゃうのは避けられないから、ゴメンね、名も知らぬヒロインちゃん。
伊集院マヤ 高校一年生。転校生。
性格:感情の起伏が激しい、お嬢様、人懐っこい、負けず嫌い。
好きなもの:紅茶(特にアールグレイ)、小動物(特にリス)、観葉植物、チェス。
嫌いなもの:雷、ピーマン、孤独、体格や顔立ちの幼さに触れられる事。
身長:145センチ。
体重……これは見ない、スリーサイズも見ない。小柄で細身だから、軽そうな事は想像がつくけど。
放課後の予定:新しい街の散策、自宅でのティータイム(友達を招くのを密かに夢見ている)。
デート可能エリア:学校、図書館、公園、美術館、老舗の喫茶店。
転校生か。なるほど道理で見たことない訳だ。
この子、小柄な上に幼い顔立ち、金髪ロングで碧眼だから、まるでフランス人形だ。
こないだのロリィタショップのアイテムで飾ったら、絶対カワイイな。絶対怒られるだろうけど。
この子と朝倉くん、仲良くなるのかな。仲良くなりそうにないよなぁ。まあでも、主人公とヒロインだから、仲良くなっちゃうんだろうけど。
二人は、一通り言い争いをしてから、お互いに『ふん!』とそっぽを向いて、別方向に歩いて行った。
行き先は、二人とも学校のはずなんだけど、他の方向に行くのは対抗心からかな。いや、ゲームの都合かも。
これだけテンプレ通りだと、マヤちゃんは朝倉くん、そして私と同じクラスに転校してくるんだろうな。
で『あ、あの時の当たり屋!』みたいな事になりながら、そのうち仲良くなっていくんだろうな。
*********
「今日はなんと、転校生を迎える事になりました」
朝のホームルームの時、先生が案の定、転校生について話し始めた。
私はもう、マヤちゃんの事は何もかも知ってるけど、一応周りに合わせて「え〜」だとか言ってみる。
ちなみに先生は、口しかないのっぺらぼうみたいな顔をしてる、ちょっと怖い。私みたいな目隠れモブの方が、若干マシな扱いをされてるらしい。
先生、この世界の非モブ男性は朝倉くんだけだからね、恨むならTONAMei社の開発スタッフを恨んでね。
「どうぞ、入ってきてください」
先生が、廊下に向かって声をかけると、開いたままのドアからマヤちゃんが入ってくる。
マヤちゃんは、チョークを一本取って、お手本のような美文字で、黒板に『伊集院マヤ』と書いた。
「伊集院マヤと言います、これから、よろしくお願いします」
マヤちゃんは、さっきのケンカとは打って変わって、柔らかい動きで、きれいな礼をして自己紹介した。
さやかちゃんの、武道家としての礼もきれいだけど、それとは違って、日本舞踊みたいな品がある。
その所作を見たクラス一同が、感に堪えないような吐息を漏らして、その後小声でカワイイだとか、お嬢様みたいだとか、褒めちぎっている。
見た目はマジでお人形さんだからね。ロリィタ着せたら、完璧にお人形だもん、本人は着たがらないだろうけど。
「という訳で、今日からクラスメイトが一人増えます。みなさん、仲良くしてくださいね。席は、窓側の一番奥の、空いてるところです」
窓側の一番奥って、私の席だけど、隣に空いてる席なんて………と思ったら、隣に席が現れた。
いや、さっきまで無かったよねコレ。どういう原理で現れたの。ゲームの世界だから、その辺のご都合は分かるけども。
「お隣同士、よろしくお願いしますね」
隣の席に着いたマヤちゃんは、優しい笑みで挨拶してきた。
「佐伯佳奈と申します。以後、どうぞお見知りおきを」
私が挨拶を返すと、マヤちゃんは口元に手を当て、うふふと笑う。
「変わった喋り方をするのね、可笑しいわ」
おかしいと言われて、一瞬たじろいだけど、面白いの丁寧な言い方だと気づいて、すぐに平常心を取り戻した。
「これが地でございますので、どうぞお気になさらず」
「そうなの? まあいいわ、わたしたちお友達になれるかしら」
「もちろん、なんなら今すぐにでも」
私が手を差し出すと、マヤちゃんは両手で包み込むように握ってくれた。
柔らかい手。お嬢様らしく、部活も文化系一筋だから、こんなに柔らかい手なんだろうな。
「これから、よろしくね。佐伯さん、いいえ、佳奈さん」
「はい、こちらこそ。伊集院……じゃなくてマヤさん」
ああ、また友達が増えた。
なんて順風満帆な、異世界生活なんだろう。
………って、ちょっと待て。
朝倉くんと、マヤちゃんのイベントが発生してないぞ。
そこだけベタじゃない? それとも、後でイベントが起こるのか?
もしかして、私が知らないだけで、ギャルゲーってのは、ヒロインと主人公がモブと友達になるとか、割とよくある話なの?
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