コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
僕は、一つの可能性をかけ
道を戻っていた。
それは、小人が言っていた落とした可能性だ。
一度外れたものは、何度も起こりやすい。
…コツ…。
…コツッ…コッツ…。
…。
階段は真っ暗だった。
光の一筋すらも見えない。
小人達の明かりになれていたせいか、
段の輪郭すら見えない。
「お…っと…これまずい…」
僕は提げていたカバンからマッチをとり、
火で階段を照らす。
…。
…。
…ヒィ…ッゲッホゲホッ…。
屈んで歩けば、埃を吸うに決まっている。
…。
…ヒィ…。
…。
いつの間にか
窓を打ち付けていた激しい風の音は消えている。
…コツ…。
…。
足取りが重い。
まるで自分が闇に潜む怪物のような気がしてくる。
…ヒィ…。
器官を狭く這うような呼吸音。
僕一人だと、屋敷はあまりに静かだった。
足音は僕だけ。
呼吸も僕だけ。
他に音を奏でるものはいないし、
光が照らすこともない。
そういえば、明かり。
屋敷の明かりは
僕の手で取り戻していたはずだった。
どうして、僕は気付かずマッチの頼りない火で
登っていたのだろう。
僕は階段のスイッチを探す。
…。
…。
スイッチは見つからない。
どうやら、屋敷の明かりは全て地球儀から
放たれているらしい。
そして、
その屋敷を照らしていたはずの明かりが
全て消えている事に気付く。
おかしい。
小人達と地球儀を直してから、
明かりはつけたままだったはずだ。
誰かが意図的に消したのかもしれない。
…。
明かりもブローチの強奪も
小人達がやったとは思いきれなかった。
…。
今は、小人達がいないことが
寂しい。
その気持ちだけが、
彼らを犯人だと思うのをやめていた。
長い長い階段を一人で登り続ける。
…。
…。
ようやく、現れた一本道の廊下。
道中にブローチは見つからず、
ついにここまで来てしまった。
プラネタリウムの部屋になければ、
僕はこの後、屋敷内を回らなければならない。
それほどまでに、
あのブローチは僕にとって大切なものであった。
…コツッ…。
…キィ…。
扉を開けると、
星々の明かりは付いたままだった。
…ラン…ランランッ…。
その輝きを一つ一つよく観察する。
……ランッ…ランッ。
僕のブローチと同じ輝きはなかった。
「ここにもないか…」
他をあたるしかないようだ。
…。
…。
その時。
カランコロンッ…。
軽快なベルの音が屋敷中に響き渡る。
それは、
誰かが玄関の扉を開けた音だった。
…。
…。
音に釣られるようにして
玄関に辿り着く。
そこに人影は見当たらなかった。
「おかしいな…確かにベルが…」
…ランッ…。
何かが光り輝く気配がした。
そこには、扉の下に置き去りにされている
僕のブローチがあった。
僕はすぐさま拾い上げ、
宝石に傷一つ付いていない事を確認する。
胸元にはめ直し、
安堵で目を閉じた。
「ええ、これで舞台は整いましたな」
声に振り向くと、
暗い廊下が伸びているだけだった。
僕は再び目を閉じる。
「アイツが僕らに意地悪をしたからだ」
「その通りです。新たな客人を迎えてしまえば、
こちらのものです」
それは明らかに小人達のものだった。
けれど、声の数がいつもより少ない気がする。
「先程の客人さんどこいったのー?」
「ヤツは我らが大声を上げれば、出てくる位置にいるさ」
どうやら、ベルの音は本当だったようだ。
しかし、その客人の気配は感じない。
「いでよ!我らが下僕!ヤツを焼き払いたまえ!」
小人の一人が叫ぶと、
見えない闇の中で何かが蠢く気配がした。
僕が目を開けると、
それは迫っていた。
「おやおや、貴殿がこの屋敷の主でおありで?」
顔を白ペンキで塗りたくったような血色のなさ。
目元の隈は疲れ目にしては、わざとらしい
ピエロ風メイク。
彼は小人ではなかった。
「君は一体…」
青いビー玉が飛び出てきそうなほど
見開いている。
「どこか見覚えがあるような気がするのは、僕だけかな…」
口裂けのようにどこまでも開く大口。
「フヘヘヘヘヘハハ!うんうんその感じ!会ったことがあるかもですねぇ?」
「は、はぁ…」
彼は陽気というより、
狂気を感じる話し方をする。
「あぁ、わたくしの名を呼びたいでしょう!わたくし。トイと申しましてッヘハハハハ!」
果たして彼は、何がそんなに面白いのか。
壊れた人形のようなトイは
丁寧にお辞儀する。