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第11話「オーバーロードの凱旋と、二人の過保護な怪物たち」
Veeタワーを文字通り言葉だけで壊滅させてきたノアが、ハズビン・ホテルの重厚なフロントの扉を開けたとき、ロビーにはすでに独特なノイズと熱気が渦巻いていた。
「ただいま、みんな。ちょっと寄り道しちゃったわ」
ノアが少しふわっとした黒髪を揺らしながら、いつもの落ち着いた低い声で呼びかける。
その肩の上で、大烏のレインが「ガァ」と満足げに羽を鳴らした。
その瞬間、ロビーの奥からグリーンの電波ノイズと共に、弾け飛ぶような大音量のジャズミュージックが響き渡った。
『おやおや、お帰りなさい、地獄一エレガントな煽り手(プロボーカー)のお嬢さん! 素晴らしい! 実に、実に見事なトップニュースですよ!』
アラスターが鹿の杖を軽快に回しながら、満面の笑みを浮かべてノアの前に滑り込んできた。
彼の持つラジオのスピーカーからは、パチパチパチと盛大な拍手喝采の効果音が大音量で流れている。
『あのプライドばかり高いテレビの薄型画面(ヴォックス)が、あなたの一言で回路をショートさせて泡を吹いていたと、今さっき私の影たちが報告してくれましてねぇ! いやはや、これほど痛快なエンターテインメントは、ここ数十年で最高の傑作だ!』
アラスターはノアの手を取り、まるで偉大な戦友を迎えるかのように大げさに称賛してみせた。
ノアがいつものフランクな調子で
「ふふ、ちょっと画質が荒かったから、親切に教えてあげただけよ」
と低いイケボで返すと、アラスターはさらに満足げに喉を鳴らした。
だが、その称賛のジャズをかき消すように、上空から
「ノアーーーーッ!!」
という悲痛な叫び声が降ってきた。
ドカン、とロビーのシャンデリアの真横をすり抜けて着地したのは、白いシルクハットを深く被り、両手に大量のゴムのアヒルを抱えた地獄の王、ルシファーであった。
「ノア! 無事かい!? 怪我はない!? あの青白い画面野郎のタワーに単身で乗り込むなんて、僕の心臓が止まるかと思ったよ! 僕はもう悪魔だから心臓なんてとっくに動いてないけどさ!」
ルシファーは抱えていたアヒルたちを床にバラバラとぶち撒けながら、ノアの元へ駆け寄った。
彼女の毛先にある鮮やかな赤色が、ヴォックスの電撃で焦げたものではないかと、涙目で確認し始める。
「いくら君が強くたって、あそこはVeeズの本拠地なんだぞ!? もし君に何かあったら、僕はあいつらのタワーをご自慢の炎で消し炭にして、地獄のゴミ箱に直行させてやるところだったんだ!」
親バカならぬ「親友バカ」全開で取り乱すルシファーに、ノアは少し目を細め、その低い声で優しく語りかけた。
「パパ、落ち着いて。私を誰だと思っているの? 30羽のカラスたちもいたし、傷一つついていないわ。ほら、レインも元気よ」
ノアに優しく頭を撫でられ、ルシファーは一瞬で「へへ……ならいいんだ……」といつもの大人しい表情に戻った。
そして、床に落ちたアヒルの中から、一際手の込んだ
「テレビの画面がバキバキに割れた、小さなカラス型のアヒル」
をノアの手のひらに乗せた。
「君の勝利を祝して、急いで作ったんだ! どうだい、最高に不気味で可愛いだろう!」
「ええ、とっても素敵ね。ありがとう、パパ」
ノアが嬉しそうにアヒルを受け取ると、ルシファーは「やったぞ!」と子供のように胸を張る。
だが、その微笑ましい光景を、アラスターが鋭いラジオ・ノイズと共に遮った。
『おやおや、王様。過保護が過ぎるのも考えものですよ。ノアは私たちが認めた『フェザー・デーモン』、あの程度の電波泥棒に遅れを取るような柔な御方ではない。あなたの安っぽい玩具で慰める必要など、どこにもありませんねぇ』
「なんだとぅ!? 安っぽいとは何だ、この鹿野郎! これは僕が魂を込めて作った、ノアとの友情の結晶なんだぞ! お前こそ、ノアの活躍を自分のラジオのネタにしようと手ぐすね引いてるだけじゃないか!」
「おや、それは心外な。私はただ、彼女のエレガントな手際を全地獄に正しく伝えてあげたいだけですよ」
再び始まった、地獄のトップ二人の子供じみたマウント合戦。
ロビーの床にはルシファーのアヒルが転がり、空気中にはアラスターの緑のノイズが飛び交う。
そんな二人を前に、ノアは呆れつつも、少し低い、耳に心地よい声でクスクスと笑った。
「本当に、あなたたちは私がいないと退屈しちゃうのね」
そのノアの言葉に、ホテルのカウンターの陰から様子を伺っていたサーペンシャスが、目をうるうると輝かせながら
「ノア様……やはりあなたは地獄の聖母でいらっしゃる……!」
と、エッグマニズたちと一緒に感動の涙を流しているのだった。
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第11話「オーバーロードの凱旋と、二人の過保護な怪物たち」
次回!第12話「血とネオンの円卓、黒羽の席次」