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ピアノを演奏している男子学生──、戸田の顔つきか変わった。


お咲が、自身が奏でる音を掴んで唄っている事に気が付いたからだ。


戸田は、あり得ない事とうっかり動揺してしまい、一音外してしまった。


ところが、それまで、お咲は忠実に再現してくれる。


一筋縄ではいかない相手と、戸田も悟ったのか、真顔で演奏し始めた。


お咲の良く通る声とその正確な音域《メロディ》に、学生達は息を飲み、唄声へ必死に耳を傾け始める。


ただ、玲子と取り巻きだけは、認めないとばかりに、執拗にお咲を睨み付けていた。


「なあ!もうこの辺でいいだろ?と、言うことで、おれ達がばたついている幕間に、お咲と男爵夫人に唄ってもらうってことで。客もそれなら飽きないだろ?」


中村が、ぐるりと見回し皆の同意を得ようとする。


自分達と共に、お咲が唄う訳ではない。あくまでも、別枠なのだから、発表会という品位は保てるだろうと、中村は取って付けたような事を言ってお咲を擁護した。


それを聞いた学生達も、困惑しながら中村に賛同し始める。


ピアノの音が止まった。


「岩崎先生!桃太郎なら、バイオリンよりピアノの方が良いのではないでしょうか?私が伴奏しましょう」


思わぬ戸田の提案に、他の生徒からも拍手が沸き起こった。


「いや、しかし、そうなると、戸田君。君の出番を変更しなければならん……」


いわゆる第二部、幕間が引けて初めての発表者は、戸田の予定だったのだ。


「そうか……そうなると、やはり……」


「あー、お咲は、中村でいいよ」


戸田の言い分を遮るようにお咲が答える。


「えっ?!」


なんと無く投げやりな、お咲の物言いに、当の中村は面食らい、教室には笑いが巻き起こった。


「なんなの!バカらしい!!こんな茶番受け入れられない!それに、客って、なに?!発表会の場は、皆の学習の成果を見せる所なのに!!」


やってられないと、玲子は叫び、荷物をまとめる。


教室から出ようと勢い良く入り口の戸を開けたとたん、玲子は誰かとぶつかりそうになった。


「なんなの!はこっちの台詞だ!女学生さんよぉ!!」


なぜか、というべきか、今までどこに行っていたのか二代目が、怒りながら立っていた。


「京さん!聞いとくれよぉ!ついでだから、地代貰いにいったらっ!校長のやつ、払えないって言いやがる!確かに、建物は、寄付か何かで学校が建てたものだけど、土地は田口屋のもんだぜ!!そうでなくとも、賃貸料滞納してんのに!まだ、払えないとわっ!!ってことで!学生!!実入りのない学校のために、今度の演奏会で、木戸代しっかり集めなっ!!」


「何、訳のわからないことを!!皆さん、行きましょう!」


玲子が、プンプンの二代目を押し退けるようにして退出した。


もちろん、誘われた取り巻きも後を追うように教室から出ていった。


「……訳がわからないのは、どっちだよ!惚れただなんだ人のものにちょっかいだしといて、どの面下げてまだ教室で粘るかなぁーー!!」


玲子の事を揶揄する二代目の怒りは相当なものだったが、それを見る岩崎は、木戸代もなにも、客は、二代目が用意するサクラのはず。ここに来て、まだ何をやらかすつもりなのかとぼやいた。

麗しの君に。大正イノセント・ストーリー

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