/s/[storyId]/_components/heading/assets/back_arrow_icon.4081080bcaba67b8.svg){kind=icon}
/s/[storyId]/_containers/report-container/assets/more-icon.20cfac1b79e24f56.svg){kind=icon}
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！
～m×k～「レンタル彼氏、想定外につき。」
――Side 康二
俺、向〇〇二。
現在、関東の私立大学に通う三回生。専攻は国際文化学で、趣味は写真と読書。よく笑い、よく喋る関西人。……って、まあ、自己紹介はこれくらいにしとこ。
今、俺は渋谷のカフェの前で、スマホを握りしめて突っ立ってる。
通り過ぎる人の視線がちょっとだけ気になるけど、それよりも心臓がバクバクして仕方ない。
なんでって――今日、俺、**人生初の「レンタル彼女」**を頼んだ。
……なあ、ちょっとだけ言い訳させて。
まず、俺は別にモテへん訳ちゃうねん。話もそこそこできるし、女の子と接するのが苦手ってわけでもない。
ただ――付き合ったことが、ない。そういうの、意外と多いやろ？ ……いや、そう信じさせてくれ。
彼女いない歴＝年齢。つまり、２０年とちょっと、ずっとソロ。
もちろん「そろそろ彼女作らなあかんなあ」って思ったことは何度もあったし、合コンも誘われれば行った。でも、どれもピンとこんかってん。
好きになった人がいたこともあった。でも、「この人に告白したら関係壊れるかも」とか「うまくいかんかったらどうしよう」とか、考えすぎていつも踏み出されへんかった。
……俺、初めての彼女だけは、絶対に失敗したくないねん。
これはもう、子どもの頃からの“こだわり”みたいなもんやと思う。
誰でもええから付き合う、じゃなくて、ちゃんと好きになった人と、ちゃんと付き合って、ちゃんと大事にしたい。そう思ってるうちに、気づいたら２０年超えてもうた。
でな、ある日、大学の講義後。
仲のええ友達がふと、雑談の中で言ったんや。
「初デートってさ、意外と難しいんだよな。俺、練習したよ」
「……練習？ 何の？」
「レンタル彼女。マジでおすすめ。会話の流れとか、歩く距離感とか、支払いのスマートさとか、全部勉強になる。彼女できる前に一回やっといた方がいいって」
衝撃やった。
そうか、“練習”って選択肢があるんやって。
それまで、デートって「付き合ってから初めてやるもん」やと思ってた。けど、恋愛に正解なんてないし、ましてや経験ゼロの俺が本番一発勝負で挑む方が無茶やんな。
そう気づいたら、あとは早かった。
ネットで調べて、評判のいいところを探して、何度もレビューを読んで、
ついには**「レンタル彼女予約完了」**の画面に、指をそっと添えてた。
……緊張で心臓止まりそうやったけど。
今日がその、初・レンタル彼女体験の日。
待ち合わせ場所は、このカフェの前。時間はあと１０分後。
もちろん、服も念入りに選んできた。
清潔感のある白シャツに、ネイビーのジャケット。美容室で整えてもらった髪に、少しだけ香る柑橘系の香水。カフェ代とは別に、奮発して新しいスニーカーまで買った。
……もう、完璧なはずやのに、めっちゃ緊張する。
だって相手は、プロの「彼女」やで。
俺みたいな素人が、会話とか、うまくできるんか。
歩き方、座り方、目線、間の取り方――ぜんぶ、ちゃんとできるんか。
しかも、プロフィール見た限り、めちゃくちゃ綺麗な人やった。
（大丈夫かな……俺、ちゃんと「彼氏のフリ」できるかな……）
不安と期待と、ほんのちょっとのワクワクが混ざり合って、胸の中がぐるぐるしてる。
――そんな中、スマホが一回、ブルッと震えた。
「もうすぐ到着します。楽しみにしててください♪」
メッセージの最後には、可愛らしいクマさんのアイコンが添えられていた。
（……あかん、緊張マックスや……！）
カフェの前のベンチに座って、そろそろ３０分が経とうとしていた。
最初の１０分くらいは、正直余裕やった。
「まあまあ、こういうのって少し遅れてくるもんよな。女子って、ほら、支度とか大変やし」
そう自分に言い聞かせて、スマホを何度も確認しながら時間を潰してた。
１５分経過。
「……ん？ もしかして、場所間違ってるとかある？」
不安になって、予約時のメールを再確認。いや、合ってる。場所も時間もバッチリ。俺の頭もバッチリ整えてきたのに、来えへん。
２０分経過。
（これは、あれか？ドッキリか？いや、俺がテレビ出るわけないしな……ってか、あれ？これ、放置されてるやつなんか？）
最悪のシナリオが頭をよぎる。
「お客様のご希望内容が特殊すぎて、担当が拒否権発動」みたいなことになってたらどうしよう。俺、プロフィールに“初めての恋人になってくれる方希望”って書いたんやけど、それってもしかして重かったんか？
……いや、そんなことで断るようなプロちゃうやろ。ちゃうはずや。
（でも現に来てへん……いや、いやいや、これは何かの事情や。焦ったらあかん）
そう思いながら、スマホの時計をちらっと見たそのとき――
「すみません……あの、もしかして……康二さんですか？」
突然、柔らかい声が真横からかけられた。
「えっ？」
慌てて顔を上げた俺の目の前にいたのは――
……男やった。
しかも、めっちゃ整ってる。
高身長で、漆黒の髪に、落ち着いたグレーのシャツ。
顔がシュッとしてて、目が綺麗で、何より、声が優しすぎる。
でも。
でもでもでも。
……男やった。
「え、えっと……すみません、どなたですか？」
咄嗟に立ち上がり、半笑いで聞き返す。
「本日、レンタルされた者です。〇〇蓮と申します」
「…………へ？」
「プロフィール名とは違う名前で登録してるのですが、運営には“蓮”で表示されてると思います。今日は、よろしくお願いします」
「あの……ちょ、待ってくださいね」
パニックを押し殺しながら、俺はスマホを取り出し、レンタル彼女の予約ページを開いた。
確かに“担当：蓮さん”って書いてある。でも性別の欄は……あれ……「男性」……⁉
「いやいやいやいやいや！ え、ちょ、なんで！？」
声、裏返った。通行人が振り返る。見んなや！
「俺、“レンタル彼女”を予約したつもりなんですけど！？」
「そうですよね……でも、よくあるんですよ。『レンタル彼女』と『レンタル彼氏』、同じサイト内でやってるので、登録時に間違える方、結構いらっしゃって」
「え、えっ……？ 俺……女の子とデートするつもりやったのに……っ」
頭を抱える。現実がバグってる。
（なんやこの状況……女の子との初デートの練習やったのに……え、これ練習相手、男……？ どこでどう間違えたんや、俺……？）
「……つまり、俺、“彼女”じゃなくて、“彼氏”を……レンタルしてもうたってことですか？」
「はい、そういうことになります」
爽やかな笑顔で、そう断言された。
いや、笑顔が爽やかすぎるねん！ 余計つらいわ！
「……俺、ついに、性別すら間違えんねや……これもう、デートどころか人生のスタート地点にも立ててへん気する……」
呟いた言葉が、思ってた以上に深刻で、
思ってた以上に滑稽で、
その場で膝から崩れ落ちそうになった。
「大丈夫ですよ」
そのとき、蓮さん――目の前の男が、静かに言った。
「練習相手ってことなら、僕、けっこう慣れてますから。もしよければ、今日だけでも付き合ってもらえませんか？ 一日だけの“彼女役”として」
「……いや、“彼女役”って、男ですやん……」
「うん。男です。でも、意外と勉強になると思いますよ」
なんやその自信……
めちゃくちゃ落ち着いてるし、声まで優しいし、
しかも俺の動揺を見て、笑わんとちゃんと受け止めてくれてるのが、なんか、ずるい。
（……どないしよう）
初めてのデート練習は、女の子じゃなくて、
なぜか“男前の彼氏”から始まることになった。
俺の恋愛人生、前途多難すぎる――。
「……ええい、もうこうなったらや」
俺はベンチの上で膝に置いた手をグッと握りしめた。
まだちょっとだけ気持ちは混乱してるけど、現実は変わらん。彼女は来んかった。いや、正確には“俺が間違えて彼氏を呼んでしもた”んやけど。
でも――
「……もともと“デートの練習”って目的やったし……相手が男でも、まあ、成立するんかもな……たぶん……いや、知らんけど……！」
小声でブツブツ言うてたら、横から優しい声が返ってきた。
「……というわけで、デートしていただける、ってことで大丈夫ですか？」
「……はい。すみません……こっちの手違いなんですけど、せっかく来てくれはったし、勉強やと思って。お願いします」
俺が深々と頭を下げると、蓮さん――いや、“めめ”さんは、ふっと笑った。
「じゃあ、呼び方どうします？」
「呼び方……？」
「僕のこと、なんて呼びますか？ 色々あるけど……今日だけのデートってことなら、もっとくだけた方が雰囲気出ると思うし」
「ああ、なるほど……」
俺は少し考えてから、思いきって言ってみた。
「うーん……じゃあ、めめ、とか……？」
言った瞬間、ちょっと恥ずかしくなって、自分の声が小さくなったのが分かった。
けど、めめは嬉しそうに、にっこりと笑った。
「ふふっ、いいですね。わかりました。めめって呼んでください」
その笑顔が、なんかやたらと優しくて。
人懐っこいっていうより、“安心する”感じの雰囲気やった。
「あとね」
めめはふわりとした口調で、すっと言葉を続けた。
「今からは敬語、禁止。ね？ 康二」
「……っ！」
名前。
しかも、めっちゃ自然に呼ばれた。
「……あ、あの、それ、急にやな……びっくりするわ」
「ふふ、だって“彼女役”でしょ？ 他人行儀じゃ、練習にならないよ」
そう言って、めめはわずかに顔を近づけてきた。
距離、近。
目、綺麗すぎんか。
まつ毛、長……。
……なんで男相手にこんなドキンとせなあかんねん俺！
「ほら、力抜いて。大丈夫、俺、案外頼れるタイプだから」
めめはそう言って、ふわっと俺の手を取った。
「――じゃあ、デートね」
「……って、ちょ、え？」
気づいた時には、手を握られてた。
しっかり、でも優しく包むような握り方。
「え、え、手、繋ぐん!?」
「うん。デートだし。普通でしょ？」
「え、いや普通か!? 男同士で!? え、これ普通なん!?」
「彼女役なんだから、いいでしょ？ それに……なんか嫌？」
「……いや、嫌やないけど……いや、そうじゃなくて……」
動揺しすぎて、言葉がどこに着地するか分からん。
なんで俺、こんな自然体の男に、こんなにペース握られてんねや。
けど――
手、あったかいな……。
（……なんか、ほんまに……デートしてるみたいや）
顔が熱くなってくるのを誤魔化しながら、俺は繋がれたままの手をそっと見た。
握られた手の先には、
どこか遠慮のない、けど優しい“彼女役”の男――
めめの笑顔があった。
「康二の行きたいとこある？」
手を繋いだまま、ゆるゆる歩き出して数分。
ふと、めめが俺の顔を見上げて、柔らかく聞いてきた。
その言い方が、ほんまにナチュラルで。
まるで長年付き合ってる彼女みたいに、当然のように、俺の好みを優先しようとしてくれてる。
「え……いや、特に……」
思わず答えながら、すぐ後悔した。
いやいや、なんやねん「特に」って。なんも用意してへんやん俺！
（うそやろ……これ、“プロの彼女”っていっても相手女の子の予定やったやん！せやのに俺、待ち合わせ場所しか決めてへん！）
今日のために服も整えて、髪も整えて、靴まで新調した。
けど、“行く場所”という最重要事項を――完全に忘れてた！！
（あかん……俺の脳みそ、スカスカや……！）
デートってのは、服装よりもまず、行き先やろ。流れとか、食べるもんとか。
そういうプランを考えて、“今日は楽しかった”って思ってもらうんちゃうんか！？
（……これがほんまの彼女やったら……俺、初回からアウトやん……）
頭の中で、未来の俺と架空の彼女が壮絶な“初デート反省会”を繰り広げている。
『え、行き先ノープラン？ マジで？』
『いや、そんなつもりじゃ……』
『初デートでそれとか、付き合う意味ある？』
（うわああああ！！未来の俺、がんばれえええ！！！）
一人で脳内寸劇をしていたら、隣からふっと優しい声が届いた。
「……なら、俺の好きなとこ行ってもいい？」
「え？」
「康二が気に入ってくれたら嬉しいなって思って」
そう言っためめは、ちょっとだけ恥ずかしそうに、でも自信をもった目でこっちを見てた。
（……え、なんなんこの人……プロって、こんなに自然なん……？）
普通に考えてみ？
さっきまで「女の子との初デート練習」するつもりやったのに、今や俺、男に手ぇ引かれて、行き先まで優しくエスコートされてるってどういう状況？
（なんかもう、俺の中の“彼氏像”が揺らいでる……）
でも――不思議と、嫌な気はせぇへんかった。
「……うん、任せるわ」
情けないけど、素直にそう言えた。
俺の中にある“男同士”っていう違和感が、だんだん薄れてきてて。
むしろ、「この人に任せたら絶対ええ時間になる」って、なんかそんな気がしてた。
「よかった。じゃあ、ちょっと歩くけど、ついてきてね」
めめはにっこり笑って、繋いだ手にちょっとだけ力を込める。
その指先のぬくもりに、またちょっとだけ心臓が跳ねた気がした。
いや、気のせいやろ。男やし。男相手にドキドキするなんて、あるわけ――
（……いや、あんねんなぁこれが……！）
こっそりうつむいたまま、俺は自分の動揺を笑ってごまかした。
デートプラン、丸投げのくせに。
なんやねんこの胸の高鳴り。
今日の俺、想像以上にあほやけど――
でも、ちょっとだけ、“楽しみ”って思えてる自分がいた。
続きは note にて公開中です。
作者名「木結」（雪だるまアイコン）でご検索ください。
※おまけ小説（18歳以上推奨）も収録しております。
閲覧の際は、年齢とご体調に応じてご自身のご判断でご覧ください。
