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「ぐぬぬ……あと少しだってのに、アリエッタちゃんを借りるのが怖いっ!」
「いっそ数人で囲むというのは……」
「それだとあからさまだし、純粋さが足りないのよ。何よりそーゆー店じゃいし」
「そういうものですか」
今日も何かを企んでいるネフテリア。エルトフェリアの事務室でひたすら唸っていた。
護衛というよりは、すっかり秘書のような立場になっているオスルェンシスが、主の為に提案をする。
「何かいい方法が無いか、フラウリージェで相談してみるのは?」
「むーん、それしかないか。こんな事はミューゼ達に相談出来ないし」
「知ったらどんな目に合うか分かりませんものね」
ここ最近、アリエッタがフラウリージェ店員と夕食をとっていたのは、ネフテリアの支持である。アリエッタとフラウリージェの交流の為と言って、保護者の参加は遠慮させていた。しかし、続けていくうちにミューゼ達が危険な存在になってしまったので、『交流』を平和に続けられるような打開策を考えなければいけなくなったのだ。
フラウリージェに向かいながらも案を出していくが……
「わたくしがミューゼを色仕掛けで堕とせ──」
「まず無理ですね」
「被せてまで否定しないでくれる!? 悲しくなるから!」
思い出す事すら恐ろしい目にあったばかりなので、話だけの説得をしようなどという考えにはまず至らない。現状ミューゼやパフィが望むものを提示しなければ、『最も大切にしているアリエッタを借りる』という取引まで話を持ち込む事すら不可能なのである。
その為にいま出せる手札は、フラウリージェの新作のみ。それ以降の交渉材料は、無い。
すっかりミューゼ達との交友関係も深くなったフラウリージェの一同やクリムであれば、何か良い案が……出るといいなーという儚げな希望を胸に、ネフテリアはフラウリージェへのドアを開けた。
「ノエラー、いるー?」
「っきゃああああいやあああああ!!」
ぼんっ
「へっ?」
「【柱】!」
突然の悲鳴、そして魔法。あまりの急展開にネフテリアは動けなかったが、オスルェンシスが影で柱を作り、飛んできた魔法を下から突き上げ、そのまま天井をぶち破った。
そしてエルトフェリアの2階の小部屋が爆発した。
っどおおぉぉん
突然の爆発に、客は慌て、密偵が集合し、あたりは騒然となった。
「うわーお、一体何事?」
驚きを通り越して、まるで他人事のように反応するネフテリア。その視線の先には、明らかに混乱している水色の髪の少女がいる。
「あわわわわわ……」
その頭上には少女が持っていたと思われる杖が、影によって縛り付けられている。
「えーっと……?」
何か言おうとしたその時、何人もの気配が店の内外に現れた。壊れた天井、窓の内側、ドアから入ってすぐの所に、客と思しき男達が、警戒しながら店の中を見て状況を把握しようとする。
呆然とする王女、腰を抜かす店長、服の陰に身を隠す店員、抱き合って震える店員達、影の柱と蔓を出している護衛、涙目で怯える少女。
現状を視認し、男達は一斉に飛び出し、オスルェンシスを包囲した。
「違う違う、そっちじゃないよ」
えっ…という顔でネフテリアとオスルェンシスを交互に見る男達。
「あー、悪いけど、しばらくフラウリージェは立入禁止と、修理の人を呼んでというのを、外の兵士に伝えてくれる? こっちはこっちでやっとくから」
男達は無言で頷き、すぐに店の外へと出ていった。
「あの方々は……」
「後で説明するわ。さて、ん?」
ネフテリアは改めて正面の少女を見たが、いない。
「あのー……」
ノエラの声に振り向くと、少女はいつの間にか、ノエラの後ろに隠れていた。
(おお、また随分と可愛いわね……)
ネフテリアが来るまで、店員に少し弄られていたのだろう。スペードやダイヤなどの刺繍が入ったポップなデザインのワンピースに、マント替わりの黒いポンチョを着ている。冬用の新作で、とても暖かそうである。
「その子は?」
「えー…その……ニオちゃんとおっしゃいまして、外から様子を見ていたところを、うちの子達が捕まえてきたので、色々着せてましたの」
「懲りないね? 気持ちは分かるけど」
ニオと呼ばれた少女は、今もノエラの陰に隠れて、ネフテリアとオスルェンシスの様子を見ている。
(アリエッタちゃんに負けず劣らずの可愛らしさね。王女として小さい頃から磨かれてるのに、この子達の将来に勝てる気がしない……)
活発そうなアリエッタとは違い、大人しそうという印象を受けるタレ目と水色のロングヘアー。なぜか怯えの意思を感じる瞳が、小動物っぽさを醸し出している。
とりあえず自分に攻撃魔法を撃った経緯を確かめる為に、微笑んで話しかけてみる事にした。
「こんにちは、ニオちゃん」
「ひぅっ……」
(え、なんでこんなに怖がられてるの?)
挨拶をするとビクッと震えて、4割程出ていた体をそーっとノエラの後ろに沈め、見えている部分が残り2割となった。
「ネフテリア様。もっと優しく話しかけてあげませんと」
「やってるけど? じゃあシスおねがい」
「はい」
ファナリアに来る前に近所の子供の相手の経験があり、多少子供の扱いに自身があるオスルェンシスが、ニオの方を向いた。オスルェンシスとニオの視線が合った瞬間、ニオは「ぴっ」と鳴き、サッとノエラの後ろに完全に隠れてしまった。
『………………』
少しの間、フラウリージェを沈黙が支配した。
「夢を見たんですの?」
「うん……」
何故か怖がられてしまうネフテリアとオスルェンシスは、店を出るふりをして影の中へ。ノエラに事情聴取を任せて聞き耳を立てる事にした。
「さっきの人達に、いっぱい魔法とか撃たれるの。やっつけたと思ったら、怖いのを飛ばされたり、ぶすっと刺されたりして、うちが負けちゃうの……」
「そうでしたの……怖い夢を見たんですのね……よしよし」
「ぐすっ」
(夢? またドルネフィラー絡みかな? それにわたくし達?)
ただの夢であれば、別に気にする事もないのだが、ドルネフィラーという存在がある以上、夢をただの夢と判断する事が出来ない。しかも話の内容が随分具体的である。
(具体的な夢に、会った事のない実在する登場人物か。未来の夢……予知夢かしら?)
ファナリアにも予知夢の逸話はある。さらにドルネフィラーとの直接的な交流も増え、色々な夢の話を聞かされているので、夢に関する話はすんなり受け入れるようになっていた。
「それでね、いろんな人に話を聞いたら、このお店の人に似てるなって言われて」
「本当かどうか確かめに来たんですのね?」
(行動力あるなぁ、どこから来たのかしら。発音に独特の訛りがあるけど)
ニオはコクリと頷いた。すっかりノエラには懐いている様子で、店員達も次に着せたい服を手に持ちながら一安心。
「さっきビックリしちゃったみたいだけど、そんなに怖かったんですの?」
「……わかんない。でもあの顔見たら急に」
「顔が怖かったんですのね?」
(おいこらノエラさぁん?)
話を聞くために少女に同調するのは仕方ないが、言っている事が悪口になっているせいで、影の中のネフテリアはちょっとお怒りである。
(しかしどうしたものか……)
出ていくタイミングを伺っていたが、ノエラからそういう話に持って行ってくれないと、突然顔を出した瞬間に悲鳴と魔法を向けられかねない。
「あの子に悪意は無いみたいだけど、夢がトラウマになってるみたいね。シスはどう思う?」
「うふふ、こわくないですよぉー……」
(あ、だめだこりゃ)
先程のショックで、オスルェンシスはしばらく使い物にならないと判断し、動くときに無理矢理命令する事にした。
「本当は怖くないお姉さん達ですわ。今度はしっかり心の準備をして、会ってみませんこと?」
「……うん! がんばる!」
(さすがノエラ! わかってるぅ!)
「では廊下にいきますわよー」
少し大きな声で、行先を告げる。これは見ている筈のネフテリア達へのメッセージである。
一呼吸置いて、ノエラがニオの手を引いて歩きだす。そして、合図の為に廊下に通じるドアをノックした。
「は、はいってまーすっ!」
『………………』
何故か慌てたネフテリアの声が聞こえてしまい、思わず2人で固まってしまった。
「入ってますじゃありませんわ!?」
バンッ
気を取り直して勢いよく廊下に出ると、なんとか影から出ようとするネフテリアの上半身があった。
「ああっ、まだ入ってるのに!」
「なにやってらっしゃるんですの……」
「だってシスが動かなくなっちゃってっ、移動はしたんだけどっ、うまく出してもらえなくって」
オスルェンシスの気力が足りず、腰のあたりで影に引っかかってしまっている。その姿を見て、ノエラはため息を吐いた。
「ニオちゃん。この方がこの国の王女様ですわ」
「なんでこのタイミングでちゃんとした紹介したの!?」
「う、うん。だいじょうぶ、です。怖くない……」
なんとも情けないネフテリアの姿に緊張が解けたのか、それとも心構えが出来ていたのか、なんとか怖がらずにネフテリアをじーっと見ている。
そんな少女ニオに見られたネフテリアは、開き直って真面目な顔つきになってみた。
「ニオちゃんだったわね。気分は落ち着いた?」
「え、あ、はい……?」
「そんな状態で優しく声かけられましても……」
「ほっといて」
今ならまともに話が出来ると判断したネフテリアは、まずはノエラを含めて今問題となっている話をする事にした。
「お店の弁償の事なんだけど」
「あ」
そういえば、という感じにノエラが声を発し、ニオの顔から血の気が引いた。
「ごめんなさいごめんなさいっ! いじめないでくださいっ!」
「いじめないよ!? 働いてもらわないといけないけど」
「はいぃ……」
「あの、ニオちゃんをいじめないでくださいね?」
「いじめないってば!」
この日、フラウリージェに新しい仲間が増えた。
「よろしくお願いします。ニオです。頑張って働いてお金返しますっ」
ぱちぱちぱちぱち
「アリエッタちゃんと同じくらいの子なんてサイッコー!」
「これで子供服の試作し放題ですね!」
「みなぎってきたー!」
「はえぇ……」
テンション高く迎えられたニオ。とりあえず店の修理費を稼ぐまでという話で、働く事になった。主に子供服の試着モデルとヴィーアンドクリームの手伝いを任せられる予定となっている。
「これなら無理にアリエッタちゃん借りなくてもいけるわね。助かったぁ」
この事がきっかけで、ネフテリアの悩みも一気に解決する事になるのだった。