TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

数分後。

ジェシーの様子を見計らって、サイラスは執務室に戻ってきた。ティーセットを乗せたワゴンを引いて。


「それで、説得は出来たのか。そのために、ジェシーをここに連れてきたんだろう」

「はい、そうですかって、この私が言うと思って?」

「まぁ、セレナの行方が分からない以上、手を引くとは思わないから、俺は説得なんてしねぇよ」


そう言いながら、テーブルの上にある、食べ終えた食器をワゴンへと乗せていく。そして、全て乗せ終えると、扉の外に置いた。いつものことなのか、手慣れた様子だった。


「気が済むまでやればいい。俺よりも、お前らの方がそういった場数は多いんだ。対処できるだろう」


一応、鍛錬はしているサイラスだったが、デスクワークが多いため、戦闘に関しては、ジェシーやロニよりも劣ってしまう。だから敢えて、口出しはしない、と言いたいのだろう。


「サイラスにジェシーを説得してもらうどころか、俺が説得されるなんてね」

「言って聞くなら言うが、聞かないんだから、それ用に対応するしかないだろう」

「二人とも、頼りにしているからね」


ロニとサイラスから同時に顔を向けられた後、溜め息をつけられた。


「それじゃ、話を戻すがいいか」

「何? まだあるというの?」


あぁ、と返事をしながら、サイラスはロニを見る。まるで構わないな、と許可を求めるような目線に、ロニは頷いて話を促した。


すると、サイラスは立ち上がり、机の引き出しから紙の束を取り出して、テーブルに広げた。


「書庫に籠っていたら、王城の敷地内の地図が出てきたんだ。それも、かなり古いやつがな」

「仕事が早いな。伝えたのは昨日のことなのに」

「気になったんだよ。将来の仕事場の近くに、得体の知れない物があるなんて、考えたくはないだろう」


確かに、と思いながら、地図を広げるのを手伝う。


紙の中央に描かれている、一番大きな建物は王城だろう。そこを中心に、右側に厩舎と侍従や侍女といった城勤めの者たちの宿舎があり、その近くには、騎士団の訓練場が描かれていた。


北側に見えるのは王子宮の建物である。そして、左側へ移動すると、模様のように描かれた庭園の全体図が目に入った。


注目するのは、さらに北側。そう、数日前レイニスが現れた場所であり、今日ロニが近づけなかった場所でもあった。


「王女宮?」


ジェシーは、地図に書かれた文字を読んだ。


「そんなものがあったのか」

「考えてもみろ、王子宮があれば王女宮があっても不思議じゃねぇだろう」


言われてみればそうだった。しかし、ゴンドベザーの王室は、王子であろうが王女であろうが、例外なく王子宮で育てられる。


王妃は、ゾド家出身でなくとも、縁戚もしくは傘下の者から選ばれるからだ。

そのため、王妃に子供ができなくとも、同様の家門から側室を迎えるため、諍いなく生まれた子供は、皆等しく同じ宮殿に入るのだ。


そしてそこから、傀儡となる後継者が選ばれる。


このようなシステムを作ったのが、我が四大公爵家であるため、ジェシーが国外追放されたいもう一つの理由でもあった。


傀儡になるしかないランベールと、王妃になるしかないセレナ。


やりたいことをやれず、レールの上に乗るよう強いられるのを見るのが、胸糞悪かった。好きなことをやっている私としてみれば。


「でも、私たちが知らないほど、長いこと使われていなかった宮殿でしょう。使えるものなの? そんな建物」

「実際使おうとするなら、それなりに修繕すれば使えんじゃねぇの。壊されていなければ、の話だが」

「もしあったとして、そこに近寄らせたくない理由は何かしら」

「さぁな。秘密基地、とか?」


何をバカなことを言うの、とばかりにジェシーはサイラスを睨んだ。


「二十歳も過ぎた男が、そんなことするわけがないでしょう!」

「そうか。アリだと思うけど。なぁ、ロニ」

「え? あ、否定はできないかな」


この裏切り者め! と今度は隣に怒った顔を向ける。


「もう! 真面目に考えなさいよ!」


結局、答えが出せない問題、ということでお開きとなった。正確には、忙しいサイラスに追い出された形ではあったが。



***



そして、本日最後の訪問先となるマーシェル邸に、ジェシーは辿り着いた。


まだ遅くない時間帯だったからか、玄関に立っていても、訓練場から声が聞こえてきた。さすがは多くの騎士団を抱えている、マーシェル公爵家である。


「相変わらず、凄いわね」

「参加したい、って言わないでくれよ」

「言わないわよ」


何でそんな変なことを言うの、と首を傾げたが、ロニからの疑いの目で、自信を無くした。


前に言ったことがあったのかしら。


そんな疑問も、ロニの部屋に通されたことで消し去った。何故ならテーブルの上に、宝石の付いたブローチやネックレス、髪飾りが数点、並べられてしまったからだ。


「好きなのを選んでもいいし、全部持って行ってもいいよ」


五年も平民暮らしをしていたせいか、気後れした。


そういえば、回帰してから、私の部屋にある宝石箱を開けていなかったわね。


「気に入らなかった? 似合いそうな物を選んだつもりだったんだけど」


戸惑っていると、ロニから逆に心配そうな声がかけられた。


「ううん。どれも素敵よ。ただ驚いてしまって。数日前までは、平民だったから」

「あっ。そうだね。……つい、あれもこれもになっちゃったんだ」

「ロニは感覚が戻るのが早いのね」


私も早く戻らなくては、とジェシーは髪飾りを手に取った。ちょうど雑貨屋で見た、ヘアピンと同じ紫色をした髪飾りを。


「付けようか」

「……お願いするわ」


返事を聞くと、すぐさまジェシーの後ろに回り、セットしていた髪を解かれた。一瞬、体がビクッとなった。そのまま髪に付けると思ったからだ。


まさか、それ用にセットし直すなんて。数日前までは平気だったのに、何だか緊張する。


「ジェシー、出来たよ」


そう言って手鏡を渡される。アップにしていた髪を後ろに垂らし、横髪だけが後ろにまとめられていた。よくロニがしてくれていた髪型である。


「この髪型が好きなの?」

「何で?」

「よく結ってくれていたから」

「……全部まとめちゃうと、触れないからね」


ジェシーは手鏡を握り締めた。


聞くんじゃなかった!


「他のも付ける?」

「ううん。ドレスじゃないんだから、付けたら可笑しくなってしまうわ」


手鏡をロニに返しながら、ジェシーは平静を装った。これ以上は耐えられそうになかったからだ。


「じゃ、他の物はソマイア邸に送っておくよ」


えっ、と一瞬戸惑ったが、コリンヌとレイニスのやり取りを思い出した。


別に可笑しいことではないのよね。コリンヌだって、多くレイニスから貰っていたわけだから。


「ありがとう、ロニ」

「どういたしまして」


ロニはジェシーの髪を一房掴み、キスをした。


貴族としての価値観に慣れることよりも、ロニのこの態度に早く慣れなくちゃ、心臓に悪い!


その姿にロニが満足気な顔をしていることに、ジェシーは気がつかなかった。


巻き込まれた公爵令嬢は回帰前の生活に戻りたい!~犯人を捜していたら、恋のキューピットをしていた~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚