ーチャイナの装束ー
「ほんと悪りぃけど、頼んだ。じゃ、ローレン借りてくわ。」
そう言うと、葛葉は煙と共にフッと消えた。相変わらず自由気ままな性格だ。わけもわからず魔界に連れて行かれたローレンを思うと少々胸が痛むが、今はそんな事を言っている場合ではない。
イブラヒムは急いで支度に取り掛かる。
(まずはエクスにチャイナの装束を。私はこのままの服装でも構わないだろうが、彼はいかにも英雄といった格好だ。)
イブラヒムが2度手を叩くと、仕立て屋のような2人の男が部屋に入って来た。
「彼にチャイナの装束を。1時間で頼む。」
そう言い残し、イブラヒムは、軽快なヒールの音と沢山の装飾がぶつかり合う音と共に部屋を後にした。
「えっ、ちょっと!!イブ様?!」
突然のことで、エクスは困惑を隠せない。
そんなエクスの横で、仕立て屋2人はウキウキと準備を進める。
「へぇー。がたいも良いし、作り甲斐がありそう…」
「1時間とか結構キツいけど、アタシ頑張っちゃおっかなぁ〜!」
「ヒィッ…!!」
(この2人、ただの男性じゃなくてオネエだったのかよ?!?!)
みるみる内に、エクスは全身を採寸されて行くのだった。
1時間後
「良いんじゃない?」
「そう…。アタシらにしては完璧!」
なんと2人はたったの1時間でエクス用のチャイナ装束を完成させてしまった。流石、イブ様が雇うだけあって腕がいいなと思いながら、エクスは鏡で改めて自分を見る。
(思った以上に着こなせてるかも…)
藍色に染まった装束は、手触りがとても良かった。よほど高級な布なのだろう。
しばらくして部屋のドアが開いた。
「エクス、準備はいいか!!そろそろ出発だ。馬車を用意させたから…おぉ…!」
部屋に入って来たイブラヒムは、エクスを見て言葉を止めた。エクスをじっと見つめ、思い出したかのように言葉を続けた。
「すごく似合っている…やはり仕立ての腕がいい。2人とも、感謝しなくてはな。」
「えぇーそんなっ、とんでもないですー!」
「イブ様に言われたら頑張っちゃいますよ!」
2人ともイブラヒムにメロメロなようだ。
透き通る、女性のような美貌を前にしたらそりゃそうなるだろう。
「エクス、行くぞ。チャイナへ!」
「はいっ!!」
こうして2人は馬車に乗り込み、チャイナへの道を急いだ。
誰も、こうなる事を予測などしていなかっただろう。
こんな、最悪の事態が起きると。
ターコイズの指輪が落ちている。
「イブ様の物だ…」
その指輪を握り締め、エクスは顔を怒りに歪めた。
「クソッ!!…必ず助け出します。イブ様…貴方は俺が守る。」
エクスは暗闇に包まれたチャイナの西通りへと走り出した。
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作者より
作者は受験を控えているので、しばらく投稿が普段より遅くなってしまいます。(いつも遅いですが、、)何卒ご理解ください。
コメント
2件
いつも素敵な作品をありがとう ございます😭✨️ 毎回見入ってしまいます🤭 受験頑張って下さい!! 応援してます😌