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ー馬車の中でー
イブラヒムが御者の側に、エクスがその向かいに座る。馬車は乗り心地がとても良く、座席の質感ときたら、これ程いい手触りの椅子は利用したことがないぐらいだった。
そのぐらい、馬車自体は良かった。…が、
「何でこんなに揺れるんですか?!?!」
エクスはついに声を上げた。
肩や足や腕がそこら中にゴツゴツとぶつかる。流石にこれは揺れすぎだ。
「我慢してくれ。はぁ、これだからチャイナに行きたくないんだ。」
イブラヒムは辛そうな、呆れたようなそんな表情を浮かべている。
「チャイナ周辺は治安があまり良くない。道の整備も行き届いてないんだ。だからこんなに最悪な旅になる…そういえば、エクスにはチャイナについての説明がまだだったか。」
「あ、はい。すみません、あまり詳しくなくて。」
「まぁ、割と最近に出来た国でもあるからな…」
チャイナはコーヴァスとも関わりが深い。特にコーヴァスは燃料や石油製品を、チャイナは鉱石や宝石を始めとした貿易でお互いに親しくしている。
チャイナはラグーザ家とも関わりが深い。しかし、ラグーザ家の王位継承には反対していた。アレクサンドルは認めない。もしそうなった暁には、ラグーザとの縁を切る、と。
しかしラグーザ家はアレクサンドルが継がないと、継承が途絶えてしまう。継承者は、彼以外にいなかった。他にどうしようもなかった。
アレクサンドルが次期魔界の王としてチャイナへ挨拶しに行ったところ、商談が決裂した。
「チャイナは世界屈指の武力大国でもある。敵側になってしまった今となっては、いつ攻撃されてもおかしくない訳だ…」
イブラヒムは冷静に、しかし目には悔しさを浮かべながら話をする。エクスにも、事の重大さは理解できた。だが、疑問は多く残る。
「なぜ、チャイナは葛葉を嫌うんです?明確な理由があるんですか?」
「それは、…何だ?うぁっ!あぁっ!!」
イブラヒムが答えようとした途端、急に馬車が激しく揺れた。イブラヒムは御者側に座っていたため衝撃をもろに受け、エクスの方に倒れ込んでしまった。
「イブ様!大丈夫ですか!!」
エクスは咄嗟にイブラヒムを自分の胸でしっかりと受け止めた。華奢で線の細い身体が、少し震えている。
「っ…びっくりした…悪かったエクス。もう…大丈夫だか…ら…、エクス??」
イブラヒムは戸惑う目つきでエクスを見上げる。エクスはイブラヒムをより一層強く抱きしめた。
「エクス…い、痛い…から、離してくれ。もう大丈夫だから…」
エクスはイブラヒムの言葉で我に返り、パッと腕を解いた。
「…すみません。気をつけて下さいね。心配になります…」
エクスの顔が赤くなっていた事に、イブラヒムは気づかなかった。
狭い馬車の中が、異様に熱い気がした。
「チャイナに到着いたしました。」
御者の声がした。
エクスは馬車から降り、イブラヒムに手を差し出す。イブラヒムはありがとうと言うと、不安げにエクスに言った。
「…エクス、チャイナの治安の悪さは甘く見ない方がいい。お互い、くれぐれも行動には注意しよう。」
エクスは深く息を吸い、心を鎮めた。
「…はい。」