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第九章 「忍び寄る影」
薬草採取から数日後。
俺たちはいつものように市場で買い物をしていた。ルーラは珍しくミリアと並んで野菜を見比べ、わずかに笑っていた。
――そのときだ。
背筋をなぞるような視線を感じた。
振り返ると、黒い外套の男が人混みの向こうからこちらを見ている。
目が合った瞬間、男はふっと消えた。
「……気のせいか?」
そう自分に言い聞かせたが、胸の奥のざわつきは消えない。
帰り道、裏通りを抜けようとしたとき、狭い路地に三人の男が立ち塞がった。
「そこの銀髪の子、渡してもらおうか」
短剣を持ったチンピラ風の男が、にやりと笑う。
「断る」
俺が答えると同時に、ミリアが一歩前に出た。
しかし、男たちは武器を構える前に吹き飛ばされた。
突風のような衝撃――ルーラの力だ。
彼女は無表情のまま、小さく呟いた。
「……触らないで」
倒れた男の一人が、震える手で懐から何かを取り出そうとした瞬間、俺は足でそれを踏みつけた。
それは奇妙な紋章が刻まれた銀のメダルだった。
「お前ら、何者だ」
「……俺たちは依頼を受けただけだ。『銀髪の娘を捕らえろ』ってな」
吐き捨てるような声。背後からはもう一つの視線を感じたが、振り返ったときには誰もいなかった。
家に戻った後も、ルーラは黙って座っていた。
だが、握られた拳の白さが、彼女の中に渦巻く何かを物語っていた。
――嵐の前の静けさ。
それが、じわじわと近づいてきている。