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珠莉と璃都は、不安げに顔を見合わせた。「……この道で、帰れるかな」
誰も答えを知らなかった。ただ、家の方角だけを信じて、二人は高速道路の逆方向へ歩き出した。
車の列はどこまでも続いている。
珠莉は最初の一台の窓ごしを覗き込み、中の様子に息を呑んだ。
座席には血のついたシート、誰もいない助手席――。
璃都が「大丈夫?」と声をかける。小さく頷いた珠莉は、意を決してドアを開けてみる。
まだ「生きている人」がいるかもしれない。
何か食べ物や水が残っていれば、それを使うしかない。
二人は慎重に、車の中を確かめながら、一台ずつ歩を進めていく――。
珠莉と璃都は、アスファルトの焼けるにおいが漂う高速道路を歩き始めた。両脇には動かなくなった車が何台も、列をなして止まっている。
最初の車の中は誰もいなかった。空になったペットボトルや、半分食べかけのパンの袋が散乱しているだけ。その次の車、窓越しにのぞいてみると運転席に人が座っていた――けれど、その人はうつむき、微動だにしない。
「……ここ、開けてみるね」 珠莉は小声で璃都に言い、慎重に後部座席のドアに手を掛けた。ドアは静かに開く。中からくぐもった腐臭が漂う。珠莉はそれ以上近づくのをやめ、そっとドアを閉めた。
「誰も……生きてないのかな」 璃都が、不安そうに呟く。
三台目の車はワゴンで、後部座席には大量の荷物や食料が積まれていた。珠莉は助手席のドアを開いて、中のパンや水を少しだけ譲ってもらった。 「ありがとう……」と、誰にともなく零す。
そんなふうに、二人は一台ずつ車の中を確認して進んでいった。
ときおり、奥の方の車で何かが動く音がし、二人は身を寄せ合いながら様子をうかがった。
窓の向こうで誰かが、ゆっくりと顔を上げ――
その目が熱のない灰色だったとき、二人はすぐにその車から距離を取った。
夏の日差しが容赦なく照りつけ、アスファルトの上を歩く足が重くなる。
それでも珠莉は「大丈夫。きっと家に帰れる」と自分にも璃都にも言い聞かせながら、慎重に、確実に前へ進み続けた。
――高速道路の上、姉弟だけの帰還の旅が、静かに続いていく。
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