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珠莉と璃都が車の中を探っていると、静まり返った高速道路に「コツ、コツ……」と靴音が響いた。二人ははっとして顔を見合わせ、急いで近くのバンの陰に身を潜めた。鼓動が速くなり、息を殺す。
歩く音は徐々に近づいてくる。珠莉はそっと車のボディ越しに音のする方を覗き見た。
現れたのは、一人の大人の女性だった。
傷だらけの薄いシャツに、手にはバッグ――周囲を警戒しながらゆっくりと歩いている。
突然、女性が立ち止まって周りを見回し、「誰かいるの?」と小さく声をかけた。
珠莉と璃都は顔を見合わせた。隠れ続けるか、それとも……。
少しの沈黙のあと、珠莉が勇気を振り絞り、バンの陰からそっと顔を出す。
「……います」
女性は一瞬驚いたように目を見開き、「子供……?」「子供だけなの?」と信じられないようにつぶやいた。
道路には、珠莉、璃都、そして女性。三人だけの、静かな緊張が流れていた――
女性は、おそるおそる口を開いた。
「お父さんとお母さんは……?」
珠莉と璃都は、短い沈黙のあと、目を伏せる。
珠莉がぽつりとつぶやく。「……何かに……分からない、けど……」
女性は小さくうなずき、優しく言った。「そうよね……分からないわよね……」
三人の間に、重い沈黙が流れる。
やがて珠莉が顔を上げ、女性に問いかける。
「お姉さん……分かるんですか? 何があったのか……」
璃都はずっと珠莉の服の裾を強く握りしめて、怯えるように身を寄せている。
珠莉はそっと璃都の頭を撫で、「大丈夫だよ、りと」と優しく声をかける。
女性は、寂しそうに微笑んだ。
「私も……何が何だか……。急に、彼も“何か”になって……私は、逃げてきたの」
しばらく静かに、三人は互いの顔を見つめ合った。
やがて女性が名乗る。「……名前は? いくつなの? 私は、麻里(まり)」
珠莉は少しだけ肩の力を抜き、「私、珠莉……12歳。こっちは弟の璃都、10歳……」
「小さいのに弟のために頑張ってるのね。賢いわね」と麻里は優しく微笑んだ。
そのとき、珠莉の表情が突然強ばった。
おそるおそる、麻里の背後を指さしながら声を震わせる。
「ま、まりさん……うしろ……」
「え……?」麻里が振り返った瞬間、車陰から現れた影が、叫びとともに彼女に襲いかかった――
「きゃああああ!!!??」
珠莉と璃都は驚愕しながら後ずさり、珠莉が必死に璃都の手を引く。
「……逃げなきゃ……りと!」
二人は車の間を駆け抜け、その場を全力で逃げ出した――