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私は俗にいう天才だ。それは自負ではなく事実としてあるもの。元々私は貧困の村の出自で生まれた家系も別に特別すごい才能があるわけでもなかった。本当にただの農家の娘ってだけだったのだ。農作物だけでは家族を養えないということはお父さんもお母さんも理解していたようだが、それでも私のために身を粉にして働いていた。それを私はただ見ているだけだったのだが、月日が流れていき私が8歳になったある日、人手が足りないからと近辺の森で動物を狩ることになり子供である私もそれに駆り出された。子供で且つ女ということで前線には立たせることはなかったが代わりに後衛として弓の扱い方を付け焼刃だが教えてもらいそのまま狩場に案内された。結果として私の功績は子供の中でトップだった。イノシシを三頭にシカを四頭それぞれ弓のみでの狩猟のため過食部分に傷が少なく食料としても取引の品としても一級品だった。これを機に私は食料調達班にと組み込まれる。それ自体はとてもうれしかった。今までお父さんやお母さんの苦労を近くで見てきたから何かしら私も力になりたかったのだ。しかし、親とは子供が何歳になっても可愛いもので心配されて最初は反対された。しかし私は家のために働きたいと熱弁して何とか許しをえた。
それからさらに時が過ぎて私は16歳を迎えた。貧困層であることには変わりないが、物心がついたころと比べれば村自体も大分マシになっていた。それでもまだ私は満足はしていない。村単位で変えたいという気持ちもあるのだが、それ以上に生活が苦しい中私をここまで育ててくれた両親に恩返しができていないと考えた。なので私は再び両親に相談をするが、それを見越していたのかすでに様々なものを用意していた。私が両親に相談しようとしていたのは私が冒険者になるということ。
冒険者とはリスキーな職業でそのうえ収入も安定はしない。しかし、冒険者は世界でも上位に食い込むほどの人気の職なのだ。才能が有れば金銀財宝を簡単に入手でき、名誉も同時に手に入る。さらにその名が響けば各国の騎士団にスカウトされることだってある。そんな夢のある職が冒険者だ。
私はうぬぼれていると言われてもかまわないが天才だ。幼い時に付け焼刃で弓を扱えて、それからすぐに剣も我流ではあるが会得した。森の中で育ったからか身体能力も常人と比べれば雲泥の差だ。だからこそ、私は冒険者になりたかった。このあふれ出る才能を使い富を手に入れて故郷であるこの村を豊かにしたい。両親にもう苦労を掛けさせない暮らしを与えたい。傲慢であろうが私の夢はこれだ。めちゃくちゃだと言われる覚悟をして両親に相談してみたが、どうやらそれすらも見透かされていたようで私に隠れてこっそり武具のを新調していたのだ。ここまでされちゃ私もそれに見合った……いや、それ以上の成果を持って帰らないともう二人の顔は見れない。
新調された武具を受け取りすぐに着替えて旅立つ。去る時お母さんからお守りをもらった。この村に伝わるお守りで、神木の枝を加工し作られた三日月型のアクセサリー。私はそれを受け取りすぐに首にとかけた。これから私は冒険者となり世界を見る。そして名を響かせてこの村を、両親を幸せにする。そう誓い村を後にした……。
そして現在……。私は望んだとおり有名にはなれた。故郷の村から近い街『ファストリア』世界で二番目の大都市で冒険者ギルドもあちこちに存在する別名『冒険都市』とも呼ばれているこの街で私はたった三か月で名が通っていた。特定のギルドには所属せず、私はこの街のギルド本部で冒険者登録をしそこで誰もやらないような依頼からこなしていきそこから徐々に私個人に依頼が飛んでくるようになって、気が付けば新人で最速の上位冒険者『ミスリル』という称号持ちになれた。名声はこんなにも早く手に入ったのだが、それに比べ富は名声に似合わない額しかもらっていない。というのも私はいわゆる無所属という冒険者で体よく言えば『なんでも屋』に近い。そのため、危険度がある程度高くてもそれらすべてあくまでソロで倒せる範囲の物しか来ないため、報酬は思いのほかしょっぱい。私が有名なのは今言った『ミスリル』という称号のほかに『雑務の女王』なんていう不名誉までセットでついてきている。
まとめると、私は有名ではあるがそんなに稼げてないし舐められているということだ。これは由々しき事態である。この状況を打破するために私の担当になっている受付のお姉さんに相談したところ、パーティーを組むことでより危険度の高い依頼が受けられて収入も安定してくると教わった。で、ちょっと前からそれを試しているのだがみな私を避けるかでたらめ言って甘い蜜を吸いに来るゴミムシしか寄ってこない。これでは私の目標である村を豊かにすることができない。ここにきて思わぬ足止めを喰らった……。これが続くようでは厳しいことこの上ない。とりあえずほかの案を考えるためにロビーで一息つくか。
そう思いロビーを見渡すがどこも席が埋まっており座れそうな場所はなかった、ある席を除いて……。
「ん?あの席空いてるじゃん。男の人一人いるけど相席させてもらおうかな。」
他の冒険者が意図的に避けているであろう席にお構いなしに近寄り男の人に声をかけて席に座っていいか許可を仰ぐ。
「すいませーん。ほかの席いっぱいなんでここ良いですかぁ?」
「……。あぁ、構わないよ。」
暗ーい顔した男の人はこれまた暗ーいトーンで返事をくれたのでそのまま席に座る…………。が、私がこの席に座ってからというものの周りの冒険者はずっとひそひそと何かを話している。そんな後ろ指刺されることしてないんだけどものすごく空気感はよくない。もちろんひそひそと私に関してのことを話されるのも感じが悪い。ちょっとイライラしてきたとき向かいにいる男の人が声をかけてきた。
「………。失礼ですが、貴女お名前は?」
「え?私ですか?」
「……。はい」
「私は『シリル』自分で言うのもあれですけど今有名なんですよ?良くも悪くも……。」
「……。なるほど、貴女がシリルさんでしたか。」
フードをして顔がよく見えないがなんとなくうれしそうなのは伝わってきた。それと同時に憐れむような態度も……。
「時に貴女はこの街で『最恐の冒険者』の噂をご存じですか?」
「はぁ?」
「いえ、知らなければそれでいいのですが……。」
「まぁ、嫌でも耳には入ってくるよ?なんでもこの街で一番と言われるほどの腕前の冒険者で称号は『ダイヤモンド』冒険者のランクで一番上の存在だろ?しかもこの称号は各国で一人いるかどうかの稀有な存在。情報に疎い私でもそれくらいは知ってる。」
冒険者ランクなるものが世界共通であるのだがそのランクとは私が持ってる『ミスリル』という称号のことである。低い順に並べると『アイアン→ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→ミスリル→アダマンタイト→ダイヤモンド』という計八つの区分に分かれるのだが、私がもらった『ミスリル』という称号は上から三番目でかなりの上振れ組ではあるのだがそれを超える二種の称号。これを獲得するには一説によるとソロでドラゴン10体以上の討伐を一度にこなさないといけないほどと言われている。これがどのくらい難しいのか馬鹿な私には分からないが聞いたところによると平民が一国の王になるくらい難しいとされているらしい。そりゃあとんでもないやつで、崇め奉られるわけだと……。しかしなぜそんな話を初対面である私に話してきたのだろうか?
「その最恐の冒険者といわれる人物の名は存じてますか?」
「はっきりとは覚えてないけど、確か甘味を感じる名前だった気がする……。」
「その最恐の男の名は『アズキ』と言います。」
「そうそうそれだ。でも、なんで今それを話したんだ?」
「……。僕がその『アズキ』という人物です。と、話したら?」
「は?」
「貴女は……。シリルさんは信じます?」
「……。ちょっと理解が追い付かないかもしれないなぁ」
もしかして私今……。とんでもない人と相席してるの?