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「……。仮にあなたがアズキさんだとしてどうして私にそんなことを?」
「……。新参者だから僕のことを知らないと思ってね。現にこうして僕と相席してるから。」
「相席してることが新参者って?」
「やはり僕のことを知らないんですね。僕が最恐の冒険者と言われる由来は強さのほかにもう一つ、疫病神という異名も……。」
そう話す彼の瞳には光が宿っていなかった。話すときもずっと暗いトーンであったがそれ以上に暗く、哀しい声で私に過去の出来事を話してくれた。
「……。僕が持つこのダイヤモンドという称号は僕だけの物じゃない。もっと言えばこれは僕には不要な称号なんだ。ダイヤモンドという称号の入手方法は詳しくは名義されてないけど、最低でも国を救うほどの功績が必要なんだ。ゆえに本来は『ダイヤモンド』なんて称号は存在してなかった。僕が現れなければ一番上の称号は『アダマンタイト』だったんだ。」
国を救うほどの功績……。一体この人何したんだよ……。
「過去をたらたらと話すのは好きではないのでなるべく短くまとめますと、とあるドラゴンがこの街にやってきました。それを僕と当時の仲間たちとで討伐しました。その過程で仲間を失い街は救われ僕は英雄となりました。しかし失った仲間たちは帰ってこず、その失った仲間の原因は僕でもあるのです。」
「アズキさんが原因?魔物討伐は酷だけど犠牲が付きもの、そこに責任は発生しないんじゃ……。」
「……。僕は前衛に立つ人物なのに思考回路は後衛職なんです。つまり、僕は慎重派なんです。慎重に出過ぎた結果、仲間たちはしびれを切らしてほぼ無策で突撃し、その命を散らしました……。」
なるほど…。過去にこの街を襲ったドラゴンを倒したから特別な称号『ダイヤモンド』を手に入れその過程で自分のせいで仲間を失ったから『疫病神』というわけか……。そりゃ誰も近寄らんわ。英雄と話すとは恐れ多いと抱く者もいれば、仲間を殺した疫病神と恐怖する奴も存在する。つまるところ、『腫れ物』扱いですか。
「……以上のことから僕はもう冒険者であることをやめてただここで安酒を飲んでるだけの人物に成り下がったって訳です。これ以上変な噂を付けたくなければ僕から離れると…。」
「よし!決めた!」
「……はい?」
「あんた程の都合のいい人物はいないから私とタッグを組んでもらおう!」
「……今の話聞いてました?僕らもう冒険者であることをやめて……。」
「じゃあ、今日から復帰して」
「めちゃくちゃですよその発言……。それに僕は慎重派とお話しましたよね?貴女の性格が合ってるか分かりませんが多分真反対の行動派でしょう?」
「壁にぶち当たってから物事は考えるな!」
「完全に僕と相性最悪ですからやめましょう。僕は石橋を叩いて渡るどころの慎重派じゃなくて、石橋を分析して通る人を観察してその上で叩いて渡るような人です。」
「でも、それを補えるくらいの実力があるんだろ?じゃあ些細な問題だな。最悪私になんかあってもやってくれるんだろ?なら問題なし!」
「問題しかないです…。僕はもう戦闘はしないって……。」
二人の会話にどよめくロビーであったが、その空気を切り裂く声が入口から響き渡る。
「た、大変だぁ!!北の空からワイバーンの群れが来ている!!他のギルドにも伝えたが名のある奴らはみな別の依頼で出払ってるんだ!今は猫の手も借りたいほどに切羽詰まってる!誰か戦えるやつはいないか!!?」
切羽詰まった若者の声にその場に居合わせた者たちはみな動揺している。無理もないだろう。相手はワイバーンというドラゴンもどきみたいなものだ。私はまだ見たことはないが聞いた話では全長は3m前後で大空を自由に飛び回るトカゲだということだ。
ちなみにワイバーンを倒すために必要とされるランクは『シルバー』からであるがこれは一匹を5人パーティーで討伐することを想定した戦力図である。ソロだと『ゴールド』のさらに上振れの存在でないと難しいだろうが、この街ではゴールドの冒険者もかなり貴重な戦力となっている。なのでさっきの報告であった『名のあるやつら』の中にはゴールドの冒険者も含まれているだろう。今この街に残っている大半はシルバー以下の冒険者のみでここにいるやつ全員で突貫しても勝てる見込みはまぁ薄い。もちろんワイバーンの数次第ではあるが、群れと言うからには最低でも30以上はいるだろうなぁ。
恐らく今この街で残っている最高戦力はアズキさんで時点で私になるだろう。経験値は全くないが仮にも私は『ミスリル』という称号を与えられている。多少過大評価しても誰も怒らないだろう。戦力の把握とかも本当はしたいが、切羽詰まってるならそんな暇はないだろうしここは……。
「分かった。私も出よう!微力ながら力になる!迎撃場所に私を案内してくれ!!」
「おぉ!助かるよ最速のミスリルのシリルさん!」
最速のミスリルなんていうダッサイ二つ名あるんか私……。『雑務の女王』しかり、私が田舎者だからって扱いがぞんざいすぎるだろ……。まぁ、そんなのは今はどうでもいいか。
「アズキさん。さっきの件お返事待てますから私。まぁ、生きて帰れるか怪しんですけどね!」
そう告げ空いた席に立てかけていた剣と弓を手に取り、報告をくれた若者の後を追いかける。
「……。僕がまた冒険者を?ふっ……ありえないよそんなこと。だって僕は疫病神なんだから。」
お酒の入ったコップを眺め、持つ手に少しだけ力が入る。そんな彼の瞳にはわずかではあるが闘志が宿りだしていた。それを知るものはこの場には誰もいなかったが……。
「なぁお兄さん?」
「なんですかシリルさん?」
「現状はどんな感じなんだ?」
「声をかけて集まった冒険者はざっと100人程度で、そのほとんどがシルバーになったばかりか中堅くらいの方々です。みなワイバーンとの戦闘は初だとも言ってました。」
「そうか……。ちなみに魔法職とか後衛のやつらはその中でどれくらいいるんだ?」
「半分のいないでしょうね……。」
なるほど……これは困ったなぁ。仮に全体が100人と仮定して後衛職が半分もいないとなると前衛が7割後衛が3割みたいな形になるのかもしれないのか。相手は空を飛んでるから前衛職は基本何も出来ず後衛職を守ることに徹するのだが、それだと後衛職にかかる負担がえげつないな……。魔法を使う人に関しては魔力が無くなればただの人だし、その魔力を回復する道具だって決して安くはないだろう。少しでも後衛職が楽になる方法を考えないと……。
「……。確認なんだが、フックショットとかってあるか?」
「い、一応ありますがあれ自体高級品ですし扱えるものはほとんどいません。」
「私にそれをくれないか?」
「僕が持っているわけじゃないので何とも言えないですが、僕の所属するギルドマスターに確認すれば何とかって感じですかね……。」
「なら、その人に会いたい。どこに行けば会える?」
「ギルドマスターも前線に出向いてくれます。なので、このままいけば会えます。」
「分かった。頼むぞお兄さん。」
フックショットとは簡単に言えば鉤縄のようなもので高い壁や木の上などに引っ掛けて登ったりする便利な道具だ。用途こそ同じだがフックショットはその鉤縄をかなりコンパクトにして携帯できるようにしたもの。先端が矢じりのようになっており持ち手側にトリガーがある。それを押すと勢いよく矢じりが飛んでいき本体と矢じりを繋ぐ鎖が飛び出て高所に移動したり、遠くのものを引き寄せたりする使えると便利なものなのだが手入れが面倒なのとこれを使うにあたって技術が必要ということでほとんど量産はされず、今では美術品という枠組みで鑑賞されてたりする歴史から消された発明だ。
では、何故私がそんなものを知っているのかというとこっちに来た時鉤縄を使っていたことがあり、便利だが荷物になって不便と感じたときのこと、偶然古物商にそれが並んでるのを見つけて店主にこれはなにかを聞いたことがあった。その時とてもほしかったのだが私がこちらに来たばかりでお金がなく諦めてしまった。それからある程度お金が貯まって買おうと出向いたら売り切れてしまっており落ち込んだのを今でも覚えている。あれ、欲しかったなぁ……。
まぁ、これから向かう先でギルマスに許可さえ取れれば使えるみたいだし、何が何でもそれを手に入れる必要がある。恐らく私ならフックショットは簡単に使えるだろうし、私しか使えないからこその立ち回りを考えてある。あと願うのはそのギルマスがお堅い人物でないことだな……。
「……着きました!ここが迎撃予定地点です!僕はすぐにギルドマスターに先ほどのことを報告してきます!」
「済まないけど頼んだよ!」
さて、今来てる冒険者の質はどんなもんかな?シルバーと言えどゴールドに近いやつも混ざってたり……はやっぱりしないか。装備を見ても店売りの低品質な武具ばかりだ。ま、私も人のこと言えたもんじゃないけど少なくともワイバーンに傷つけるくらいの切れ味の剣は持っている。お父さんとお母さんがくれたこの剣はこの街で売ってる剣よりも質がいい。どこで買ったのかは不明だけど、今日までお世話になってるからね。それにこの弓も優秀だ。村にいたときお世話になった食料調達班のリーダーからの餞別としてもらったのだが私の癖に合わせて作られているから不満な点が一切ない。これで『ミスリル』になれているのだから私はやはり天才で間違いはないだろう。
けど、天才な私と言えど指揮をする才はなかったんだよね。あくまでこういう狩りに特化した才覚だけっていう……。まぁ、その方が天才っぽいから不満はほとんどないけど、こういう場面で指揮ができないのは悔やまれるかなぁ。
「……待たせてすまないな無所属のミスリル、シリル殿よ。」
「んぉ?」
声のした方を向くと厳格そうなおっちゃんが立っており、その隣にはここまでの案内をしてくれたお兄さんもいた。
なるほど。この人が彼の所属するギルマスさんか。見た目通りただならぬ雰囲気に実力も感じる……。確かギルマスになるには最低でも『ミスリル』にならないといけないから、この人もミスリル以上の人なのか。なら、そこまで怯える必要はないのか?この街ギルドいっぱいあるし、ギルマスが出向いてくれれば何とかなりそうな感じあるし……。
「……何を考えているか大方予想が付くが、ここにギルマスはそうそう来ないぞ?」
「へ?」
「それぞれのギルドには特徴があるからな。俺のギルドはいわゆる武闘派なもんで街の護衛とかを買って出るタイプだが、大半のギルドはこういう面倒ごとには自分は顔を出さずにギルドのやつらに丸投げする。ま、ギルマスになって地位が手に入ったから胡坐をかいているんだろう。」
「……結構ずかずかと言いますね?」
「冒険者の本来の姿を捨てた腑抜けにはこれくらい言っても文句はないだろう。」
「まぁ、私どこにも属してないんでそういうの疎いんですけど。」
「知ってるさ。無所属なのに『ミスリル』に上がったとんでもない新人って街で噂になってるからな。そんなホットな人物がここに来てくれるとは俺からしても光栄だよ。」
「いえいえそれほどでも……ありますかねぇ?」
「さて、では早速本題に入るのだが……。君はこのフックショットを使いたいと話していたそうだな?」
「そうですね。あっ、先にお話ししておきますけど仮パクとかはしないですよ?ちゃんとお返ししますからそこはご安心を」
「そんなとこは気にしておらん。俺が気になるのはこれをきみが扱えるのかどうかということだ。使ったことは?」
「一回もないですね。けど、扱い方としては鉤縄みたいなもんですよね?」
「イメージはそうだな。」
「じゃあいけると思います。」
「……。試しに少し使ってみろ。」
「分かりました。」
そういい彼からフックショットを借りる。全体のつくりを軽く見て調べた通りの構造なのを確信したあと街を守る外壁に向かってフックショットを放つ。狙った場所に刺さったことを確認すると引き延ばした鎖を巻き戻して外壁にと私がくっつく。
「……大体使い方分かりました。試しにそうですねぇ……。これ使って外壁登って見せますよ。」
私はそう告げるとフックショットの矢じりの部分を壁から引き抜く。すると支えを失った体は地面にと落下を始めるがすぐさまフックショットでさらに上の外壁のに矢じりを刺しこみ反動をつけて上に上にと登っていく。ついには宣言通り外壁を登り切りその姿を見せた後勢いを殺しながら地面にと着地する。
「これでいいかな?」
「……うむ。やはり使えたか。」
「あれ?もしかして使えると知ってて試しました?」
「そうだな。」
「試されてたのか私。」
「で?それを使いどうやってワイバーンと戦うつもりだ?」
「とか言って察しが付いてるんでしょギルマス?」
「まぁ、な。」
「私の口から聞きたいみたいだから言いますけど、これ使ってワイバーンの上に乗り一匹ずつ確実に仕留めます。疑似的な空中戦とでも言いますか。それをやってみようかと……。」