病みつきになりそうなシーニャの耳触りと全身の毛触り。おれがやってることはミルシェにしそうになったことと同じなのに、何という魅力なんだ。
「――アック、アック! くすぐったいのだ」
「……っと、悪い」
「もういいのだ?」
「この辺にしないと変な感じになりそうだから、やめとくよ」
「ウニャ?」
シーニャは年齢的にはおれやルティと同じ。そのはずなのに人懐っこさがあるからか、傍に置いておきたい衝動に駆られてしまう。
『ただいま戻りましたっ!!』
どこか買い物に行っていたのか、ルティの声が響く。意外なことに人化フィーサと一緒だった。
「イスティさま、ただいまっ! たっくさん買って来たよ~」
「何とも珍しい組み合わせだな。仲直りしたのか?」
「いえいえ、アック様違いますよ?」
仲が悪いままで一緒に買い物なんか出来たのか?
「どういうことだ、ルティ?」
「ケンカばかりしていると思ったらそれは大きな間違いなんです! こう見えて、わたしも大人になりつつあるということなのです!!」
「……ルティが大人に? どの辺が?」
「その成果をただ今大急ぎでご覧に入れますよ! ではっ!」
大人になった成果を見せるとか、どういうことなんだ?
人化フィーサはいい意味でアクが抜けているせいもあるが……。
「ふんふんふん……何だかお肉なニオイがしてきたのだ~」
「肉か。そういや、シーニャは魚は食べないのか?」
「シーニャ、お肉大好きなのだ!」
「そ、そうか。食べないわけじゃないんだな?」
「ウニャ」
虎だから肉食の方だった――とはいえ、ルティの料理も口にしていたし何でも食べるのかも。
「あら? ルティが帰って来ましたの?」
「今は料理を作っているぞ。勢揃いしたことだし、ミルシェも食べるだろ?」
どうせならみんなで食べるのがいいだろう。
「……そうですわね。人間まがいのあたしですけれど、頂きますわ」
「味覚とかもそうなのか?」
「ええ。肉は好みませんけれど」
「なるほど」
成り代わってしばらく経っていたとしても、やはり元々の味覚が優先されるんだろうな。
「シーニャ、お肉がいいのだ! ウニャ」
「何も悪いとは言ってないわ。やりづらいわね……」
相性の悪さだけは直しようが無いか。ミルシェはルティと組んでいたからいいが、シーニャは難しそうだ。
「お待たせしました! アック様、ささっ、どうぞどうぞ!!」
みんなで食べる日がくるなんて感慨深い。
しかし、
「……一応聞くが、何の肉だ?」
ルティとフィーサが運んで来たのは、何かの肉を練り合わせた肉団子。市場で買ったらしい青銅製の鍋に、ごちゃまぜで食材が入っている。
「わたしが選んだんだよ~。褒めて褒めて~!」
「そうなのか。ルティ、何の肉?」
「それですね、何とっ! 色々です! 湖村で頂いたお魚やラクルで買った獣肉なんですよ~」
答えになってないぞ。
「いつの間に貰っていたんだ……。それはいいが、何の獣だって?」
「気にしすぎでは無くて? アックさま、ルティを信用してお食べになられては?」
「……それもそうか。じゃあ頂くか」
「どうぞどうぞ! 素敵な効能効果がありますよ~!」
単なる料理で終わらせないのがルティの長所でもあるが、果たしてどんな効果が生じるのか。
「ウニャ~もう食べられないのだ~」
「肉はともかく、出汁《だし》はまぁまぁですわね」
「ゲプゥ……もう動けませぇん~」
シーニャとルティはたらふく食べ、ミルシェは食べられそうなものだけを食べたようだ。それに引き換えフィーサの正体は両手剣だからなのか、油ものだけを好んで舐めている。
「人化しても同じようには食べられないのか?」
「それはそうだよ~。人化出来ても人間じゃないもん」
「……何だか申し訳ないな」
「どうして? わたし、イスティさまの剣だもん。使われるだけでいいよ~」
「そうか」
そう言われればフィーサが食事をしているところは今まで見たことが無い。人化で勘違いしそうになるが、神はそこまで万能な剣に仕立てなかったようだ。
「――! イスティさま、人化を解くね」
「分かった」
ルティたちはソファがある部屋でくつろいでいる。そんな中、フィーサと同様におれは何らかの気配を感じていた。
「ごめんください。冒険者アック・イスティはここに?」
知らない女の声がする。民家と違って、ここの出入り口は一か所しかない。扉を開けて出迎えるか、開けずに声だけで対応するしか無いわけだが。
倉庫に戻って来た時点で強力な防御魔法は解いた。とはいえ、無関係な者が近づけないように細工はしてあったが、近づかれている時点でそれを突破されたことを意味する。
「アック・イスティに何の用だ?」
扉を開けず、このまま対応することにした。おれ目的で訪れているということは、手練れの何者かに違いないからだ。
「……アック・イスティ! 貴様の強さはまがいものだ。我らは認めぬぞ! 出て来て我らと戦え!!」
これはもしや挑戦状か?
しかも得体の知れない女の声と、複数の連中がいるとみえる。しかし理由も無く戦うのは好きじゃないし、この件はギルドにでも持って行くとしよう。
「すぐは無理だ。戦いたければギルドにでも依頼するんだな! そうすれば依頼を受けてやる!」
「……いいだろう! アック・イスティ、貴様をこの地から追い出してやる!!」
何かと思えばラクルからの追放か。
こんなことを言うなんて一体どこの連中なんだ?
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