「イスティさま、どうするなの?」
「まずはギルドに行く。得体の知れない連中でもギルドのクエストという名分を立てとけば、ラクルの連中にも迷惑をかけずに済むだろうしな」
「わらわたちも戦うなの!」
「……フィーサはともかく、アレで戦えるか?」
「そ、それは~」
ルティと始めとして、シーニャ、ミルシェは食べすぎで横になっている。訪問者が来たことには気付いたらしいが、苦しくて起き上がれなかったらしい。
「フィーサとおれだけで十分だ。彼女たちはここでゆっくりしててもらう。おれを名指しで来ているわけだしな!」
「そ、そういうことなら、わらわも頑張るなの!」
ルティとシーニャはまだ本調子じゃないだろうし、ミルシェは戦うタイプでは無くなった。そうなれば、ここで待っててもらった方が都合がいい。
ギルドに行く前に三人に声をかけることにした。
「ウ、ウニャ……」
「シーニャ、大丈夫だ。ここで留守番しててくれ」
訪問者が来ることは想定外だったから無理はさせられないな。
「アック様~たっぷり食べてごめんなさいです……お気を付けてぇぇ~」
ルティの場合は想定どおりだからいいとして。
「料理の効果を期待してるぞ」
「はいい~」
「あたしとしたことが、申し訳ございません」
「ミルシェは戻って来たばかりだし、今は休んでていいぞ」
「――かしこまりましたわ」
大した連中では無いだろうが、今一度ここの防御強化をしっかりしておくことにする。おれとフィーサは、ラクル倉庫街のギルドへと足を進めた。
鞘に収めたフィーサとともに久しぶりのギルドに来た。相変わらずの寂れっぷり……ではなく、交易が盛んになったせいか人の出入りが激しい。さらには釣りギルドも出来たことで、昔のような光景では無くなっているようだ。
自分が働いていた時は確かに寂れた町だったが独特の雰囲気があって好きだった。それが今では誰でも行き交う町となっていることには何となく違和感を覚えてしまう。
「倉庫番のアックだ……」「あいつが手配書の――」などなど、今では勝手に有名になっているからだ。外野の声を気にすることなく依頼リストを眺めていると、確かに特殊なクエストが追加されていた。
相変わらず倉庫に関する依頼ばかりの中に、≪追放連合の復讐者募集中≫というリストを見つける。依頼者の名前を見ると、そこには”ヘルガ・コティラ”という名があった。
どこかで聞いたような気もするし、そうでない気も。恐らくこの名前の奴が倉庫に来た者とみて間違いない。復讐戦の日時は夕方としか書かれておらず戦闘場所も外としか書かれていないわけだが、どうやらギルドクエストしたことで手続きを面倒にさせたようだ。
募集中ということは、おれと戦う奴を募っているということになる。追放連合とか、よほどラクルから追い出したい連中同士が多いらしい。
ラクルという町はおれにとって故郷でも何でも無く、単に拠点にしているだけの町だ。しかし使い勝手がいい町だけに、二度目の追放は勘弁して欲しい。
「イスティさま、戦いはいつなの?」
「今が昼だから、あと数時間後といったところだな」
「すぐじゃないなの?」
「ギルドを通せと言ったからな。そもそもまだ募集中だし、挑発して来た割には集まってないかもな」
女に加えて複数人といったところだろう。
「それでもイスティさまなら何人来ても無駄無駄なの!」
「……追放はともかく、戦いたいなら戦わせてやるつもりだ」
フィーサと会話しているだけで注目を集めていたので、おれはギルドを出ることに。というのも、ギルドには依頼した連中の姿が無く、おれに突っかかって来る奴らしき者の姿は無かったからだ。
「さて、と。フィーサ、ちょっと釣りギルドを見に行ってもいいか?」
「時間が余っているならそれもいいかもなの~」
「じゃあ行こう」
フィーサと船乗り場に向かう。
それにしても、誰かに復讐されるような覚えがあまりない。そう思いつつ、ラクルを拠点とすることにこだわりが無いのも事実。面倒な連中が出て来たのをいい方向に考えれば、いよいよ国に帰る時が来たのかもしれない。
そうすればここの連中に迷惑をかけることもなくなるが、その時が来たらルティに謝らねば。
「イスティさま。あそこ、人だかり!」
「……ん?」
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