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『眠れないのなら、私が行こうか?』
優しい言葉に応えてしまいそうにもなるけれど、こんな夜遅くにはやっぱり心苦しくて、
『ううん、大丈夫です。そろそろ眠れそうだから』
そう断りを入れて、目を無理に瞑ろうとした。
だけど……、SNSでちょっとやり取りをしたら、安心して眠れるはずだったのに、逆に会いたくもなって、ますます寝れなくなってしまった。
ぎゅっと目を閉じていても、想いは募るばかりで悶々としていると──、
ふいにノックの音が聞こえ、目を開けると、彼が寝室を訪れたのが見えた。
「あっ、来てくれて……」
顔を見たら、抑えていた感情が溢れて、嬉し涙が零れそうにもなった。
「……来てほしいと、どうして言わない?」
彼の手が、私の髪にふっと労るように触れる。
「……だって、こんな夜に悪いもの……」
「悪いことなど何もないから、いつでも頼ってくれればいい」
温かなセリフに、ふんわりと身体が包まれていくのを感じる。
「……ありがとう。本心は、あなたに来てほしかったの」
にっこりと笑みを浮かべて、素直な想いを返した私に、ベッドサイドのイスに腰かけた彼が、ふいと思いがけないことを口にした。
「君が眠るまで、本を読むのはどうだ?」
「……本だなんて、そんな……悪いですから」
会いに来てくれただけでも願ってもないことなのに、この上まだお世話をかけるなんて……。
それに、いつもは彼の部屋で一緒に寝ていたのを、妊娠中は今日みたいに寝つきが悪かったり、夜中に胎動などで度々起きるようなこともあって、
忙しさに追われる貴仁さんの睡眠を妨げたくなくて、私自身が自室で過ごすことにしたはずが、こんな風に恋しくてたまらなくなるだなんて、無性に面映ゆくて……。
「君は、私に気をつかってばかりだな」
込み上がるくすぐったい思いに、ブランケットを鼻先まで引き上げると、彼の手が私のおでこにひたりと触れた。
「妊娠の不安もあるのだろう? なら、私をもっと頼ってくれないか?」
そうして額にかかる髪が柔らかに撫で上げられると、抱えていた不安までもが拭われていくようだった。
「貴仁さんって、なんでもわかっちゃうんですね、私が不安を感じていたこととか……」
目尻に滲んだ涙をこすって言うと、
「当たり前だろう」と、彼が微笑んで、
「君を、私がどれほど思っていると……」
低く甘く囁くから、体ごと蕩けちゃいそうにも感じた。