テラーノベル
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寮へ戻る途中、
ひなは何度もスマートフォンの画面を見つめていた。
『今から会えるか』
綾小路くんから届いた、たった一言のメッセージ。
それだけなのに、
胸の鼓動はどんどん速くなっていく。
「会いたい」
そう返信した瞬間から、
ひなの足取りは少しだけ軽くなっていた。
待ち合わせ場所は、
学生寮のラウンジ。
夜の静かな空間に、
綾小路清隆は一人で座っていた。
ひなが近づくと、
彼はいつものように静かに顔を上げる。
「来たか」
「うん……」
向かい合って座ると、
ひなは急に緊張してしまった。
男子生徒たちとの食事のことを、
どこまで話せばいいのだろう。
「どうだった」
綾小路くんが先に尋ねる。
「……思っていたより、怖くなかった」
ひなは少しずつ、
今日のことを話し始めた。
男子たちが優しかったこと。
猫の話で盛り上がったこと。
途中で少し緊張したこと。
そして――
「まだ、完全には平気じゃないみたい」
そう言って、
ひなは自分の膝の上で指をぎゅっと握った。
綾小路くんはしばらく黙っていた。
表情はいつもと変わらない。
だが、
どこか考え込んでいるようにも見える。
「無理をしなかったか」
「うん。大丈夫だった」
「そうか」
短い返事。
それだけのはずなのに、
なぜかいつもより少しだけ声が低く聞こえた。
沈黙が流れる。
ひなは勇気を出して尋ねた。
「……もしかして、心配してくれてた?」
「少しな」
即答だった。
そのことに、
ひなの胸がじんわりと温かくなる。
だが次の言葉は、
思いがけないものだった。
「ずいぶん楽しそうだったな」
「え?」
ひなは目を丸くする。
綾小路くんは視線を逸らし、
淡々とした口調のまま続けた。
「何人もの男子に囲まれていたと聞いた」
その一言で、
ひなはようやく気づく。
――これは、もしかして。
「綾小路くん……もしかして」
言葉の続きを飲み込む。
彼は少し間を置き、
静かに答えた。
「別に、どうでもいいことだ」
いつも通りの無表情。
けれど、
その言葉の裏にある感情は、
ひなにもはっきりと伝わってきた。
「でも」
綾小路くんはひなの紫の瞳を見つめる。
「お前が無理をしている姿を、他の誰かに見せる必要はない」
ひなの胸が高鳴る。
「お前が安心できる相手は、まだ多くない」
彼の声は静かだった。
それでも、
そこには強い想いが込められていた。
「……綾小路くんは、安心できる」
ひなが小さく呟くと、
彼の視線がわずかに揺れた。
「そうか」
たった三文字。
だがその言葉には、
いつもよりも柔らかな響きがあった。
「それに」
ひなは少し照れながら続ける。
「今日、一番会いたいと思ったのは……綾小路くんだったよ」
その瞬間、
彼はわずかに目を細めた。
ほんの一瞬だけ、
無表情の仮面が和らぐ。
「……それならいい」
小さな声。
それは許可のようで、
安心したようでもあった。
そして彼は、
ひなの手にそっと自分の手を重ねる。
「少しずつでいい」
「うん」
「急ぐ必要はない」
そのぬくもりに、
ひなの不安が静かに溶けていく。
「お前には、お前のペースがある」
「……ありがとう」
「それに」
彼は少しだけ視線を逸らし、
珍しく言葉を選ぶように続けた。
「できれば……最初に頼る相手は、俺でいてほしい」
その一言に、
ひなの瞳が潤む。
「うん……絶対に」
答えると、
綾小路くんは何も言わなかった。
ただ、
重ねた手にほんの少しだけ力を込める。
それだけで、
彼の想いは十分すぎるほど伝わってきた。
言葉にならない独占欲。
それは激しい感情ではなく、
静かで不器用な願い。
誰にも見せないその感情を、
あたしだけが知っている。
そしてその夜、
ひなは改めて確信した。
自分が最も安心できる場所は、
綾小路清隆の隣なのだと。
コメント
1件
うわああ、この回めっちゃ良かった…!綾小路くんの「ずいぶん楽しそうだったな」からの流れ、完全にヤキモチじゃん!あの無表情の裏でちゃんと独占欲あるの、最高に刺さるわ。「最初に頼る相手は俺でいてほしい」って、不器用すぎて胸が苦しくなった。ひなちゃんが「会いたいと思ったのは綾小路くん」って言えたのも大きい成長だし、二人の距離が確実に縮まってるのが伝わってきて、こっちまで温かい気持ちになったよ!
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