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(…ここ、は……?)
重たい瞼を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは
自国の自室とは比べものにならないほど高い天井だった。
精緻な彫刻が施された白漆喰の天井には
金糸を用いた豪華なシャンデリアが輝き、窓からは見たこともないほど澄んだ青空が広がっている。
「お目覚めかい、セシリー」
すぐ隣から聞こえてきた低く甘い声に、心臓が跳ね上がる。
「ひっ…!」
勢いよく飛び起きると
そこには豪華なソファに深く腰掛け、優雅に書類に目を通すフィンセントの姿があった。
「あ……、……っ。ここは、どこなの……?」
「僕の国、アステリアの王宮にある『薔薇の離宮』だよ。君を連れ去るために、数年前からずっと準備させていたんだ」
数年前から。
さらりと告げられた言葉の重みに、背筋が凍る。
私が転生して必死に逃亡計画を練っている間も、この男は着々と私を閉じ込める準備をしていたというのか。
「さあ、見てごらん。君の好きなものはすべて揃えた」
彼に促され、おぼつかない足取りでバルコニーへ出た私は、息を呑んだ。
そこには、一面に広がる青い薔薇の庭園があった。
青い薔薇が見渡す限り咲き誇っている。
「魔導師を総動員して、この離宮の周りだけに咲かせたんだ。この『檻』のなかで、君が少しでも心地よく過ごせるように」
「あの……っ!私は、こんな生活を望んでいません、私はただ、静かに暮らしたかっただけで……!」
「わかっているよ。だから、ここには君と僕、そして僕が選んだ口の堅い使用人しか入れない。君の望む通り、誰にも邪魔されない静かな生活を約束しよう。……この高い壁の内側でね」
フィンセントが私の背後から音もなく近づき、その大きな手で私の腰を引き寄せた。
逃げようとしても、彼の腕はまるで鋼鉄の鎖のようにびくともしない。
「セシリー、君が自国で用意していた『偽造身分証』と『逃亡資金』、あれは僕の手元にある。……君に自由はもうないんだ」
耳元で囁かれる絶望的な事実。
私の完璧な計画は、彼の執着という底なし沼に飲み込まれて消えた。
「まだ、怖いかい?心配しなくても、酷いことはしないよ」
「こ、こんな強引に私を連れ去っているのに…?」
「ふふっ、どうしても君が欲しかったから…ごめんね」
(は、話通じてない…っ!!)
フィンセントの琥珀色の瞳が、ゾッとするほど冷たく、そして狂おしいほど情熱的に私を捉える。
彼は私の震える指先に、一つ、また一つと祈るような口付けを落としていく。
「ここにあるものは、すべて君のものだ。この国も、庭園も、侍女も……そして、僕も。だから、どうか僕の妻になってほしい」
それは愛の告白というよりは、呪いの言葉に近かった。
豪華すぎる離宮、溢れるほどの財宝、そして私を崇拝するヤンデレ国王。
世界で一番美しく、そして残酷な「檻」の中での生活が、今、幕を開けてしまった。
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