テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「どうか僕の妻になってほしい」
……そう乞われたあの日から、私の世界は
「青い薔薇の離宮」という名の小さな箱庭に作り替えられてしまった。
翌朝、目が覚めると同時に、私の自由は物理的にも精神的にも剥奪されたことを知る。
窓の外には、魔導師たちが咲かせたという不自然なほど鮮やかな青い薔薇が逃げ場のない檻の柵のように並んでいた。
「おはよう、セシリー。昨夜はよく眠れたかい?」
寝台のすぐ傍で、フィンセントが当然のように微笑んでいた。
彼は私の返事を待つまでもなく
まるで赤子を扱うような手つきで私の背に手を回して体を起こすと
白磁のカップに注がれた温かいハーブティーを口元まで運んでくる。
「え、あの、フィンセント……? 自分で飲めるから」
「いいんだ。君が指先一つ動かす必要はない。僕がすべて、君の望む通りにしてあげるから」
琥珀色の瞳が、逃がさないと言わんばかりの至近距離で私を見つめる。
結局、私は彼の腕に抱かれたまま、一口ずつお茶を飲まされる羽目になった。
喉を通る熱い液体よりも、私の頬の温度の方がずっと高い気がして、顔から火が出そうだった。
「……の、望む通りにしてくれるっていうなら、私をここから出してはくれないの……?」
わずかな希望を込めた問いに、フィンセントはふっと優しく、けれど残酷なほど綺麗な笑みを浮かべた。
「ふふっ、面白いことを言うね。ダメだよ」
彼は一点の曇りもない真剣な表情で続ける。
「せっかく君を手に入れたのに、手放すわけないでしょ?」
そこで彼は少し声を落とし、私の髪を一房掬って、そこに深い口付けを落とした。
「 ……君のためのドレスはすべて用意してある。宝石も靴も、君の肌を磨く香油も──」
「僕は君を愛してる。君が望むならなんでもするし、必要なら国ひとつ潰したっていい。でも、僕の元から離れようとするなら、一生ここから出してあげるつもりはないよ」
窓越しに差し込む陽光が彼の金髪を眩しく輝かせている。
けれどその美しさとは裏腹に、紡がれる言葉は重く冷たい鎖となって私の手足に絡みついてくる。
(愛が……重すぎる……っ!)
「わ、私は嫌……っ! 急にこんなこと言われたって、何がなんだか……っ」
私は怯えながら、シーツをぎゅっと握りしめた。
「……そうだよね、ごめん。混乱してるよね」
フィンセントは私の額に軽くキスをして微笑んだが
その瞳の奥には、底の見えない狂気じみた熱が宿っていた。