沢城「まぁ、桜子ちゃんのその色気があればこんなもん使わんでもええやろうけどな!ぎゃはは!」
私の不安な気持ちを察したのか空気を和ませてくれる沢城さんの気遣いの言葉。
「ほんとですよ。こんないい女がそばにいるっていうのにね。」
自信ありげに私は冗談っぽくそう返事をしたものの。
沢城さんのその優しい気遣いが逆に辛くて虚しさを感じてしまった。
銀次郎さんとカップルらしい時間を過ごせない事が、自分の中で深刻な悩みになっているのが改めて分かった。
私は銀次郎さんの一体、何なんだろうか…
沢城「まあ、わしも銀ちゃんの性格はよう分かってる。一度腹に決めた事はどんな事があっても貫き通す男や。銀ちゃんの事信じたってな。」
「沢城さん…。今一番聞きたかった言葉かもしれないです…ほんとにいつもありがとうございます。」
沢城「あーこういう空気苦手や!楽しくいこ!な!これは一応持っといたらええわ。あ!寂しいからって他の男に使ったらあかんで?」
「もーう!やめてくださいよ、そんな事するわけないじゃないですか!」
沢城「そやな!銀ちゃん以上にええ男なんか早々おらんか!ぎゃははは!」
そう言って楽しそうにお酒をたしなむ沢城さん。
逆に私の気持ちは焦りと不安でいっぱいだった。
私はその銀次郎さんに見合うような女になれているのだろうか…。
ミナミの鬼と呼ばれる萬田銀次郎と一緒になった女として、萬田金融の看板に傷をつけるような女にだけはなりたくない… なっちゃいけない。
だけど私で本当に大丈夫なのだろうか
銀次郎さんにまともに抱いてももらえないこんな女で…
その自信の無さからテーブルに置かれたその怪しげな薬の入った小瓶に手を伸ばしていた。
これを使えば銀次郎さんだってきっと私に…。
⋯数日後⋯
“ブーブーブー…”
ん、着信?
スマホの画面に目をやると、 銀次郎さんからの着信。
あっちから電話かけてくるなんて珍しい。 なにかあったのかな?
📞桜子「はい、もしもし。」
📞銀次郎「桜子、今電話できるか?」
📞桜子「うん、大丈夫。銀次郎さんから電話かけてくるなんて珍しいね。なんかあった?」
📞銀次郎「たまには電話でもええかと思ってな。ちょっと時間空いたから今から家に帰れそうなんや。桜子は仕事か?」
📞桜子「え!嬉しい!でも…私夜から仕事…。」
📞銀次郎「そうか、忙しいのにすまんな。そやけどちょっとでも家で一緒に過ごせたらええやろ。」
📞桜子「そうやけど…事前に連絡くれてたら時間取ったのに。」
📞銀次郎「急ぎやったり飛び入りの仕事が入るからな。事前に言うんわなかなか難しいんや。とりあえず今から家帰る。」
📞桜子「そうやんね…。分かった。待ってるね。」
そう言って電話を切った。
やっと2人で過ごせる。
前に家で一緒に過ごせてからもう1ヶ月以上は経っているし、嬉しいはずなのに…
今回も銀次郎さんが家で休むだけのそんな時間で終わるんだろうな、と私の気持ちはなんだかモヤモヤとしていた。
こんなんじゃ私が居ても居なくても変わらないんじゃないか…と。